アグレイとスノウ

 金髪の青年「アグレイ」と、真っ白な少女「スノウ」。ふたりは旅人だ。とある目的のために、日々いろいろな箇所を巡っている。
 今は小さな村へ来ていた。そこに設えられた公園の木製のベンチに並んで腰掛け、元気に走り回る子どもたちを見ながら言葉を交わし合う。
「元気だね」
「お前みたいだな」
 スノウの一言にそう返すと、彼女がこちらを見た。
「わたしはいつも走り回っていない」
「似たようなもんだと思うが……まあいいや」
 ふう、と一息つく。こういった長閑な場所は好きだ。
「それはそうと、アグレイ。決意してる。改めて」
 何を? 視線だけでそう問うと、スノウは前を見据えた。
「“神”を問いただして、ぶん殴る。だから教えてほしい。アグレイが知ってる、“神”のこと」
「うーん」
 無精髭の生えた顎を擦る。
「まだまだ不明瞭な点も多いんだよな。なにせ“神”だからな」
「…………」
「そんな残念そうなカオすんなって。まあ、俺なりに情報をいろいろ集めてみて、ソコで共通してる点は“横暴で理不尽”てやつかな。だからこそ、この世界は混沌としている部分も多いし、怪物も蔓延ってるワケだしなあ」
「ますます、殴らないと気がすまない」
 険しい表情をするスノウ(が、それでも愛嬌は抜けきっていない)を見て、思わず苦笑してしまう。そんな彼の心境は露知らず、少女はとある疑問を口にする。
「そもそも……どうして、そんなにヒネくれてる?」
 それは「神なのに」という観点からではなく、ただ純粋に感じている疑問のようだ。そこが彼女らしいなと思う。
「うん……もしかしたらだけど」
 アグレイはどこか遠くを見つめて、
「何かあったのかも……しれないな」
 そのまま、空を見上げる。「神」はこんな自分たちの推測を、高みの見物と決め込んでいるのだろうか。
「何か……?」
「そう。神にだって、“心”はあるハズだからな。何か……地上の人間たちに対して、そう振る舞うようになったきっかけみたいな出来事がさ」
「そうなのかな」
 スノウは今度はしょぼくれている。
「もしそうだったら……殴れない」
「ははっ」
 スノウの頭にぽんと手を遣り、撫でてやる。
「お前はお前の思う通りに動けばいいさ。俺はそれをサポートする」
「…………」
 しばらく黙っていたかと思うと、こちらを見上げるスノウ。
「アグレイ」
「うん?」
 少女は、照れたように微笑んでみせた。
「……ありがと」
 返事の変わりに、くしゃくしゃっと髪を撫でて──


「さて。どーやって、神のおわします場所まで行きますかねえ」