ジグとザイン

 金の髪の少年は、隣に座る白髪の美しい少年を見据えた。細身で、儚ささえ感じる出で立ちだが……
「ザイン! 行きましょう、ぜひ!」
 口調は丁寧ではあるものの、ゴリ押しをしてくるその少年に少しだけ気圧される。

 金の髪の少年──ザインは、「強くなるため」にひとり旅を決行していた。それがいつの間にやら、知り合ったこの少年とともに旅をしていた──正確には、この少年がこちらの旅路にくっついて来ているという形だ──。

 今現在ザインと少年が滞在している街には、「遺跡」の話題がよく上がっていた。何となくイヤな予感はしたものの、この街はその前に滞在していた場所から目と鼻の先の位置であったため「ラクさ」を優先してしまったのである……

「……」
「大丈夫ですよ。君のことは僕が守りますから」
 うーん……そう唸ってから、疑問をぶつけてみる。
「なんでそんなに“遺跡”に行きたがるんだ?」
「えっ? ふふ、だって“宝”が眠っているかもしれないじゃないですか! 富、欲しくないですか?」
「お前らしいよ……」
 肩を落としてぼやく。その姿勢のまま、
「つかよ。もしかしたら先客に宝を根こそぎ持ってかれてる可能性だってあるんじゃないか?」
「うーん。まあ、そうかもしれませんけど……でも、もしかしたらって可能性も捨てきれませんよ! それにワクワクしません? 薄暗い場所らしいですから、もしかしたらオバケなんか出ちゃったりして」
「オバケ」
 その単語を聞いて、血の気がさっと引いて行くのを感じる。
「だったらなおのこと、やめとく……」
「えーっ!」
 白髪の少年はこちらの両肩をがっしりと掴み、必死になって訴えて来た。
「なんでです!? 君がいないとつまらないです! 行きましょうよ! 頼みますから!」
 さらに気圧されていると、
「あ。この距離。キス出来そう……」
 少年がそんなことを呟くので、美しい顔に掌を思い切り押し付けてやった。


 そんなこんなで、滞在中の街からすぐの場所にある「遺跡」に、ザインと少年は足を踏み入れることとなった。
(ううー……ホントにオバケが出て来たら、どう対処すればいいんだろ……)
 自身より先に進む少年の衣服を摘んで、恐る恐る歩を進める。
「……怖いですか? ザイン」
 少年が立ち止まってこちらに振り返った。その眼差しは、限りなく優しい。
「そ、そりゃ……」
 思い切り俯いて、続ける。
「俺、ダメなんだよ、オバケの類とか……こーゆートコ、ホント……」
「ふふ、なんだか意外ですね」
 少年はこちらの頭を撫でながら──やはり優しく、言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですよ。何があっても、ザインは僕が守りますから」
「…………」

 薄暗い空間に、ふたり分の靴音が寂しく響く。
「今のところ、宝もオバケも見当たりませんね」
「やっぱり、先客に全部持ってかれたんじゃねえの……」
 そこで、少年は歩みを止める。
「……どうした?」
「人の気配がします。ザインは下がっていて」
 ザインを背後に庇う少年。すると真っ暗な通路の奥から、何者かが近づいて来るのが見えた。
「え、え、まさか……」
「いえ……違うようです。コイツは……」
 澄んだ声が、少年のその言葉を遮る。
「ジグ。ジグ・リィド」
 通路の奥から現れたその者は、黒い髪に青い瞳をした少年だった。ザインはその少年を見て、酷く驚く。髪と瞳の色こそ違うものの、顔立ちや背格好が、すぐ近くにいる少年──ジグにそっくりなのだ。
「来てくれたんですね、ジグ・リィド。待っていましたよ」
「えっ、知り合い?」
 こちらの問いに、ジグはかぶりを振る。
「まさか。全く知らねーヤツです」
 黒髪の少年は、にやりと笑ってみせている。薄暗い空間に、その表情はやけに映えて見えた。
「僕は君を知っていますよ。良かったら、僕を追って来てくれませんかね」
「は?」
「とっておきのモノを見せますので」
 黒髪の少年は、そこですうっと姿を消した。あまりの出来事に、ザインは呆然と立ち尽くす。


 あれから街へ戻って来たふたりは、広場の一角で「遺跡」で起きた出来事を振り返っていた。
「どうする? 追ってきて、って言ってたけど……」
「すこぶるどうでもいいですが、でもだからと言って放っておくのも癪ですね。君に手を出しに来ないとも限りませんし」
 まあ、お前に似てるヤツだからな……という一言は飲み込んでおく。
「旅をするついでに、ちょっと気にかけとくって程度でも良いでしょう」
「え……いいの?」
 ええ、とジグは頷く。
「すこぶるどうでもいいことには変わりありませんので」
「お前さ……もっと他人にキョーミ持てよな……」
 呆れてぼやく。

 またまた、そんなこんなで──ふたりの旅路に新たな目標が生まれ(あんまり気乗りはしないけれど)、そちらに沿って進むことになるのであった。