王と龍


▼ 弔い

 夕刻。手を伸ばせば届きそうな大きな大きな雲の向こうで、キミはどんな顔をして過ごしているのかな。

 ──あの時。魔王城にて咆哮とともに強大な魔術を放った自分。魔王城ごと破壊し尽くしたが、自分は奇跡的に生きていた。あの勇者一行も、その中の一員である魔法使いの脱出魔法で事なきを得ていたようだった。

「……」
 結局、犠牲となったのは──
「……もう」
 簡素な墓の前に立ち尽くして、その主を想う。
「もう……どこまで世話を焼かせるの、キミは」

 今も、頭に、耳に、胸に響く。彼が自分を呼ぶ声が──

「ねえ、兄さん」
 黒髪の青年は、こちらを見つめながら囁く。微風がふたりの髪をなびかせる。それは心地よい感触だった。
「兄さんさ。ボロボロになって倒れてたオレを、拾ってくれたんだったよね」
 彼はこちらに近づいて来る。
「ほっときゃ良かったのに。そういうトコ、ほんとお人好し」
 目を細めて笑む彼の表情は、どこまでも優しかった。さらに近づくと、軽く口づけられる。唇はすぐに離れた。
「あれ? 今日はスナオだね」
「……」
 青年は調子づいたようで、こちらの身体を軽々と持ち上げるとその場によっこらしょと腰掛け、胡座をかいた中心に、小さな身体をちょこんと載せた。
「オレさ。兄さんに仇なすヤツは全員消すって──そういう覚悟でいるんだ。たとえ命に替えてもね」
 こちらをぎゅっと抱きしめる青年。
「兄さん、大好き」
「……知ってる」
「へへへ」
 彼は笑う。とても嬉しそうなその声音は、こちらの脳に心地よく響くのだった。

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