▼ 感傷
深い眠りから覚め、ゆっくりと瞼を開ける。そうしてみてまず感じた事といえば、
(……まだ暗い)
時刻は深夜辺りなのだろうか。
(着いてからすぐに寝ちまったからなあ……)
横たわっていた寝台から半身を起こし、壁に設えられた窓から外を見る。そこには吸い込まれそうな程に深く黒い闇が広がっていた。
「……」
ただただ、ぼうっと窓の向こうの景色を見つめる。
(……元気にしてるかな)
ふと浮かんだ気持ちは、とある者への想いだった。こんな事を思い浮かべても、どうしようもない事は十二分に解ってはいるのだが。
(会いたいなあ)
そう胸中で呟いた途端に胸が苦しくなるが、
(もう、どうしようもないか)
深い深い息を吐く。
「……アグレイ」
思っていた以上に息の吐き方が深かったらしい。閉じられたカーテンを挟んだ向こうで眠っていたはずの、スノウの声が聴こえて来た。
「悪い。起こしちまったか」
「悪くない」
即答するスノウ。その速さと彼女の気遣いの嬉しさから、思わず声を出して笑ってしまう。
「アグレイ。辛いことは抱え込まない。わたしに言って」
スノウの優しさを帯びた声音が、静かな部屋にとつとつと響く。
「……ありがとな」
そう言うと、アグレイは静かに瞳を閉じた。
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