ハーデンベルギア


▼ 本音

 数日後。ザインは、風邪をこさえてしまっていた。宿のベッドに力無く横たわる。
「何か、欲しいものはありますか?」
 見舞いに来ているジグが、優しくこちらに尋ねる。
「いい……大丈夫……」
 霞む声で答えるザインに、ジグは困ったように笑ってみせた。
「無理しすぎなんですよ、ザイン。強くなりたいという気持ちは、痛いほど分かりますけど……それでも、自分の限界も考えないと」
「……」
 ジグはベッドの脇に置かれた椅子に腰掛けて、ザインの額に手を伸ばす。
「……熱がありますね」
「俺……それでも……」
 瞳を閉じ、ジグの手の温かさを感じ取りながら、ゆっくりとぼやく。
「それでも、強くならなきゃ……」
 額に遣っていた手をザインの手に滑らせ、それをそっと握るジグ。その手を口許へ持って行く。
「それは……妹さんの為……ですか?」
「それもある……けど、それだけじゃない」
 どろんとした眠気がやって来る。それに身を任せてみる。
「俺……は……対等に、なりたい」
「ザイン……?」
「ジグと……対等に、なりたい……」
 そのまま眠ってしまったので──、その言葉にジグが、ひどく驚いている事は、終ぞ知る事はなかったのであった。

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