ハーデンベルギア


▼ いつものふたり

「はぁ……また負けかよ……」
 地べたに胡座をかいて、大きな溜息を吐く。自分を負かした少年は、こちらにそっと手を差し伸べて来た。
 それを振り払い、のろのろと立ち上がる。
「すみません、ザイン。手加減するなとの事でしたので……そうしてしまったら、却ってザインに失礼かなと思いまして」
「……」
 手振りで、「いいよ、そんなん」と伝える。目の前の敬語で話す少年は首を傾げ、
「手当て、しましょうか」
「やめてくれ……これ以上ミジメな気持ちにさせんな」
 傾げていた首を元に戻し、敬語の少年はこちらの両手をぎゅっと握って来る。
「心配なんですよ。何故、そんなに『強さ』を求めるんですか?」
「前にも言ったろ。妹との約束なんだよ。絶対に強くなって帰って来るって。こんなトコでお前に負けてるようじゃ、まだまだ……」
 そう告げると、目の前の少年は、しょんぼりとした顔をした。
「それだけ、なんですか……?」
 こちらの手を握ったまま、少年。
「君にとって僕は……『勝たなければならない存在』……それ以上でも、それ以下でもないんですか……?」
 余りにしょんぼりしているので、少しだけ焦燥感に駆られた。
「いや、そ そうじゃねーけど……」
「じゃあ、はっきり言って下さい。僕の事が好きだって」
「なんでそうなるんだよ」
 思わず即答する。しかし少年に怯んだ様子はない。
「それじゃあせめて、名前で呼んで下さいよ。君の声で聞きたいです、僕の名前」
「…………」
 と、いうより──何故このような展開に……? 顔をしかめながらも、
「……ジグ」
 そうぼそりと呟くと。敬語で話す少年──ジグは、とても嬉しそうににっこりと微笑んだ。

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