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びぃえる時空でも恋がしたい!!




BL時空でのお話になるので、そういった表現や描写が含まれます。キャラ同士でそれっぽい雰囲気を出していますが、実際は違います。また、BLを否定しているわけでもありません。
少しでもそういった成分を受け付けない方は閲覧にご注意ください。







 この世界は腐っている。

 ガタゴトと揺れる電車の中。出荷される果物のように箱の中にぎゅうぎゅうと詰め込まれた人、人、人。ぎゅうぎゅうと背中を押してくるサラリーマンに、うんざりとしながらも、でも腹はたつのでケツアタックをお見舞いしてやった。面白いくらいに吹き飛ばされ、ケラケラと内心笑っていると、その先にいたまた別のサラリーマンに壁ドンをするという不気味なシチュエーションを生み出してしまっていた。思わず真顔になる。お互いに頬を赤く染め、背景に薔薇が咲く。おっ〇んずラブが領域展開されながらも、電車は何事も無かったかのように突き進んでいた。私はそうっとそこから目を離す。

 そして、今。

「あ、……ふ……ぅ……」

 隣から低い喘ぎ声が聞こえ視線を流せば、そこにはバックに顔を埋め込み真っ赤な顔をした男子高校生がいた。只事ではない空気に、嫌な予感を覚えながら、私はそっと視線を下ろしていく。
 すると、なんと男子高校生の尻をがっつりと揉みしだく無骨な手が目に入った。ソフトではない、だいぶハードな手つきだ。指の間から肉がはみ出しているんだもの。しかも、調子に乗った手はズボンの中に入ってこようとしている。うわあ、と引きながらも、私は男子高校生の背後にいたおっさんにケツアタックを食らわせた。呪力をちょっと込めたからか、おっさんはぐふっと汚い声を上げて沈んだ。ざまーみろである。

「あ、ありがとうございます…」
「いえー!」

 こそっと隣から零された謝罪に、私はニッコリと笑顔をうかべる。ついでに、恨めしげにこちらを睨みつけるおっさんの足を踏んづけておいた。痴漢死すべし。

「おい、どうかしたのか?」
「う、ううん、なんでもないよ」

 すると、痴漢されていた男子高校生の隣にいた、もう1人の学生が彼に声をかける。恐らく彼らは友達なのだろう。その彼は背丈が高く、目を刺すような眩い金色の髪をしていた。幾つものピアスが耳についている。多分、ヤンキーだ。でも、いい人そうなので、漫画でありがちな雨の中濡れている捨て猫を拾っちゃう属性だとみた。ありがちだけど、何時の時代も女はそういうギャップに弱いのだ。

「おまえ、その顔…」
「え?」
「他のやつに見せてんじゃねえよ、クソ!」

 そして、金髪ヤンキーは痴漢されていた学生をぎゅっと抱きしめ、その顔を自身の胸板で隠していた。そして、何故か金髪ヤンキーから私は睨まれている。

 ハア〜〜〜〜〜〜〜!!??

 ここが電車でなかったらそう叫んでいた。でも、私は長女だから耐えられた。長女じゃなかったら発狂してた。間違いない。
 この金髪め、友達が痴漢されている間はスマホばっかり弄ってたくせに、その友達の尻を守った救世主様に向かって一丁前に牽制か。ブチブチにキレそうになったが、つい先日担任から見せてもらった自家製のパンダのぬいぐるみを思い出し、怒りを抑えた。
 もう一度言う、この世界は腐っているのだ。

 気づいたら、そうだった。空が青いように、雲が白いように、この世界では男と男がやたら結ばれる。そういう趣向の人がいるのは理解しているつもりだ。だが、これはあまりにも酷い。酷すぎるのだ。
 道を歩けば男同士で乳繰り合っている現場を目撃し、コンビニでぶつかった気弱そうな男と不良男は人気のない場所に向かい、両方男である担任と副担任が教室で致しているシーンなど、やたらと何度も鉢合わせてしまう。道歩くカップルも男同士が多い。

 そして、幼い私は気づいた。この世界、ちょっとおかしいのではないかと。

 しかし、男女のカップルは恐らく存在する。じゃなきゃ、人類は種を残せない。私だって生まれていない。まあ、今の時代ならばオメ〇バースやセク〇スやご都合呪術で何とかなるんだろうけれども。しかし、その男女のリア充もやたらと空気が薄いのだ。恐らく男同士のカップルが色々と濃すぎて、負けているのだろう。何せ彼らの恋愛は、テレビの中みたいになかなか波乱万丈すぎるのだ。もっと平和的に、普通に恋愛をしてくれ。
 三度目になるが、この世界は腐っている。男と男がいちゃいちゃするように出来上がった、異常な世界なのだ。
 だから、私がケツでアタックしたサラリーマンはおっ〇んずラブを始める。おっさんもピチピチの女子高生ではなく男子高校生に痴漢をする。(べ、別に私に魅力がないわけじゃないやい!)痴漢から助ければうら若き男子高校生たちには青春のダシにされる。
 つまり、私はモブなのだ。悲しいことに。悔しいことに。誰だって物語の主人公になりたい。けど、現実はいつだって非情である。

「家に帰ったらお仕置だから…」
「えっ、そんな…」

 金髪ヤンキーの甘い囁きに身の毛がよだつ。人前でイチャついてんじゃねーよ!非リアの恨みを込めてケツアタックを横にお見舞した。すると、その衝撃で、彼らは事故チューをしてしまった。
 私のケツ、びぃえる製造機か何かか?





 かと言って、私だって青春がしたい。恋に憧れる女子高生だもの。吉〇亮みたいなイケメンと運命的な出会いを果たして、身も心も焦がれるようなドラマティックな恋愛に溺れてみたい。そう思うのは健全だろう。
 しかし、悲しいことにこの世界は、女に優しくない。何せこの世界にいる大多数の男は男と結ばれる運命だから。私がちょっといいなと思った男の人も、必ず別の男と結ばれる。いや、おかしいだろ。せめて相手は女にしろよ。そう思うのに、小学生の時私と同じように山田くんに恋をしていた花澤さんは、男相手なら仕方ないよね、と笑っていた。何が仕方ないの??あれから十年近く経っているが、私は未だにその言葉の意味を理解できていない。
 私だって恋をしたい。周りが男と男でイチャイチャしているのはもういいとして、私だって彼氏が欲しい。本当にただそれだけに尽きるのだ。
 吉〇亮だとか何とか言ってたけど、そこまで贅沢は言わない。男と結ばれることのない男と付き合いたい。そんな切実な願いも、字面にすると最悪だ。

「お、任務お疲れ様ー」
「帰ってくるの遅かったね」
「だっせー!どうせまたヘマしたんだろ」

 学校に戻ると、3人の同級生たちが迎えてくれた。直視できないほど、美男美女の集まりだ。こういう人達がきっと物語の主人公になれるのだろう。
 私たちは呪術師だ。びぃえるを作り出す世界の話とはまた別に、人間の負の感情から生まれる呪いを祓うために暗躍しているヒーロー的存在だ、多分。ひょんな事から私にもその力があり、ここ呪術高専にて学生をしながらも、命懸けの戦いに身を投じている。それは、3人の同級生たちも同じだ。

「仕方ないじゃん。私のケツが2つの愛を産み、痴漢を滅したからね」
「なんて?」

 友人の1人、家入硝子が首を傾げる。その口には煙草が咥えられている。副流煙をすいたくないので、ちょっと離れた位置に椅子を引っ張って座った。

「今日の任務はどうだった?」
「2級相手だよ。五条くんや夏油くんからしたら楽勝だと思うけどー」
「当然!お前がいつ泣いてSOS出すか、楽しみにしてた」
「性格が悪い!!」

 ケラケラと笑う男は五条悟だ。サングラスをとると、吉〇亮に負けないくらいの綺麗な顔が見える。しかし、中身は最悪だ。
 その五条くんはもう1人の友人である夏油傑にポッキーをあーんと食べさせていた。先程の電車の出来事もあり、私の片頬が引き攣る。

「お前もいる?」
「イイエ、ケッコウデス」
「なんで片言なんだよ」

 私は泣きたい。何故数少ない同級生までも、こうして男同士で結ばれてしまうのか。神様は恐らく腐女子(あるいは腐男子)なのだろう。
 五条くんと夏油くんは互いに親友と呼び合うだけあって仲がいい。いや、ほんとに仲がいいのだ。距離感がとても近い。先程のように食べ物をアーンして食べさせるのは普通、飲み物は回し飲み、互いの部屋に泊まりあい、五条くんは夏油くんの肩を腕を回しあちこち連れ回している。多分、2人は付き合っているのだろう。この異常な世界で、鍛えに鍛えられた私の勘がそう告げていた。
 だって、夏油くんを遊びに誘えば必ず彼は五条くんを連れてくるし、夏油くんと話していると五条くんが必ず割り込んでくる。なんなの。ずっと一緒に居なきゃ死んじゃう病気でも患ってんのかってくらいに、べたべたべたべたしている。はいはい、ご馳走様って感じである。

「いいから食えって」
「ングゥッ!!」

 無理矢理ポッキーを口に突っ込まれ、私は渋々それを齧った。美味しい。疲れた体に甘いものは染み渡る。ふにゃふにゃと力なく笑っている私を見て、五条くんはふんと顔を逸らした。
 彼はしつこく構ってきたかと思えば、あっさりと身を引いてしまう、気まぐれな体質だった。猫みたいだな、と思う。あっちの方ではどうなのかは知らないけれど。

「上手いパフェがあるカフェを見つけたんだ。こ、今度付き合え」

 すると、いつも踏んぞり返っている五条くんにしては珍しく、もそもそと誘いをかけてくる。ちらちら、とこちらに視線を向けられるが、私としては隣にいる夏油くんの顔が恐ろしくて見えなかった。

「や、やだ!」
「はあ?このナイスガイに誘われて断るのかお前」
「夏油くんと行けばいいじゃん」
「なんでだよ!!」
「仲良いじゃん」

 ぐぬぬ、と唸る五条くんに私は首を傾げる。何をそんなに必死なのだ。嫉妬させる作戦だろうか。それならやめて欲しい。私は単純に弱いので、特級である夏油くんを敵に回すと命がいくつあっても足りないのだ。

「私はあまり甘いものは得意じゃないから」
「うーん、それなら硝子ちゃんもいく?」
「なんでだよ!!」

 2度目の咆哮である。五条くんの目が何故か血走っていて怖い。なるほど、夏油くんと行きたかったのに、断れてしまったため、私で憂さ晴らしをしようと思ってるのか。理解理解、納得はしてないけど。
 しかし、夏油くんの代わりに五条くんとカフェデートはさすがに不味い。死に目にはよく合うが、別に死にたくは無いのだ。なるべく長生きしたい。死ぬならせめて吉〇亮くらいのイケメンと1回くらいは付き合ってからがいい。

「この流れで私に振る?五条に殺されたくないから行かないよ」
「え、行ったら殺されんの!?」
「あんたは大丈夫だよ。あ、ホテルに連れていかれそうになったら気をつけな」
「なんでホテル?」

 硝子ちゃんはよくわかんない顔をして、笑っていた。余計なことを言うなと五条くんは吠えている。意味がわからないから、余計でも構わないので言葉を付け足して欲しい。

「わかった!いこう!五条くん!その代わり、私が命の危機に晒されたら助けてよ!」

 チラチラと夏油くんの様子を伺いしながら、そう告げた。頼むから殺さないでくれ。巻き込まないでくれ。ダシにしないでくれ。そんな願いを視線に乗せる。しかし、当の夏油くんとしては、子供を見守るような生暖かい目で私と五条くんのやり取りを眺めていた。それ、どんな感情なの。逆に怖い。
 そして、五条くんは何故か頬を赤らめて、おう、と頷いていた。どこに照れる要素があったのだろうか。母みたいな顔をしてる夏油くんにときめいちゃったの?男同士の恋愛、複雑すぎてわかんない。

「世界を敵に回してもお前だけはちゃんと守ってやるから安心しろよ。なんせ俺は最強だからな」
「世界を敵に回すって、私何したらそうなるの」

 五条くんはふんふんと上機嫌に鼻歌を歌っている。そんなにパフェが楽しみなのだろうか。案外子供らしい一面があるなあとちょっと微笑ましく思った。

 でも、五条くんが夏油くんと結ばれていなかったら、私にもチャンスはあったかもしれないのかなあ。

 私は憂鬱なため息をついた。人生とはままならないものだ。




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