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考えるより先に身体は動いていた


「オールマイト…!!あの会見後にまさかタイミングを示し合わせて……!!」 

Mr.の言葉で名前は先ほどの雄英高校の会見を思い出す。あの時雄英高校の教師の一人が今警察と共に調査を行っていると言っていた。だが、それは違ったのだ。そのときはもうすでにここ敵連合の居場所は知られていたのだろう。そして、今回の奇襲がばれぬよう油断させるために、あのような会見を流したのだ。実に周到だ。

「木の人!!引っ張んなってば!押せよ!!」
「や〜!!」

敵連合を縛り上げる木のようなものは、シンリンカムイの個性のようだ。皆、縛り上げられて身動きがとれずにいる。
そこで名前は疑問に思った。木であれば、動かずとも突破できる個性をもった人物がこの敵連合にはいたはずだ。すぐにでもその身から炎を溢れだし、反撃をしそうなものだが。そう疑問に思いながら、名前は彼に視線を向ける。
その彼、今唯一の逃げ道となれるはずの荼毘は気を失っていた。木に縛られていながらも、その体は力をなくしている。名前は直前に飛ばされていたので見ていなかったのだが、グラントリノの目にも止まらぬ早さの蹴りにより彼は意識を飛ばしてしまっていたのだ。脱力して木に体を預けきっている荼毘を見て、名前は血の気が引いていくのを感じた。死んじゃいないだろうか。無事なのだろうか。荼毘に何かあったらと思うと、怖くて、恐ろしくて、焼けた首の痛みなんかよりも、胸がずっしりと痛くなる。

そして、ようやく名前は気づいた。名前が荼毘に体を突き飛ばされた理由。それは、恐らくシンリンカムイによる木の群れから名前を逃がすためだったのだ。
何故だ。荼毘は名前に怒っていたのではなかったのか。名前は敵連合からしたら裏切りともとれるような発言をしたのだ。それに、荼毘が失望しても仕方ないと思う。それなのに、何故荼毘は名前を守るような真似をしたのか。
名前は立ち上がり、思わず荼毘のもとへと駆け寄ろうとした。しかし、そんな彼女の前に壁ができた。

「ところで、君は?」

それは、オールマイトだった。彼は、テレビで見るよりも大きく、偉大で、圧倒された。名前の体はびくりとも動かなくなる。言葉も、なにもでない。

「違う!こいつは敵じゃねえ!」
「そうなのか?」

爆豪の言葉にオールマイトは目を瞬かせる。そして、探るように名前に視線を走らせた。その視線を受け、名前の体は緊張で固まる。
涙で赤く腫れた目。首に巻かれた包帯。不運によりあちこちについた傷や、それを手当てしたと見られるガーゼや絆創膏。オールマイトを目の前にして、怯えたように固まった身体。それを客観的に見た者が導く答えなどひとつしかあるまい。
ああ、なんてことだ。爆豪君以外にも拐われていた人がいたなんて。しかも、暴行を受けていた可能性もある。可哀想に。きっと泣いて助けを求めていたに違いない。 

「大丈夫だ。もう君が泣くことはない。我々が来たのだから」

ぽん、と。肩に手をおとされる。そこで、名前はよくない方向に勘違いが進んでいることを察した。
違う。誤解だ。名前はそれをどうにか伝えようとするも、悲しいことに声がでない。無理に声を出そうとすればするほど、喉に焼かれるような痛みがじわじわと広がり、咳き込んでしまう。それを見たオールマイトは更にその顔に悲壮な色を浮かべる。

「あまりの辛さに声までも……」

違うってば!!話聞かないなこの人!?そう叫びたかった。
それなのに、名前の口からは無意味な空気が吐き出されるだけ。誤解は名前の意図と関係なしにジェットコースター並みに進んでいく。どうしようもない。

「せっかく色々こねくり回してたのに…何そっちから来てくれてんだよラスボス…」

死柄木がぶつぶつと呟く。彼もしっかりと木によって縛られていた。

「黒霧、持ってこられるだけ持ってこい!!」

死柄木は叫んだ。しかし、何も来ない。しん、とした沈黙が続く。

「すみません死柄木弔……所定の位置にあるはずの脳無が…ない!!」

脳無とはなんなのだろうか。名前の知らぬことがまた増えていく。

「やはりまだまだ君は青二才だ死柄木!」
「あ?」
「敵連合よ、君らは舐めすぎた。少年の魂を。警察のたゆまぬ捜査を。そして、我々の怒りを。おいたが過ぎたな。ここで終わりだ死柄木弔!!」

そう宣言するオールマイトは正に平和の象徴であった。それを納得せざるをえなかった。彼は強い。彼がいる限り平和は保たれる。そんな気さえしてくる。それほどの圧倒的なカリスマ性、強さ、優しさ、気高さを兼ね備えているのだ。

「終わりだと?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…その為にオールマイトを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ……くろぎッ…」

死柄木が黒霧の名前を呼ぼうとした瞬間。それは、襲った。突如黒霧は小さく呻き声をあげて意識を失ってしまったのだ。かく、と首を下に落とす。何が起こったのか、名前は全く見えなかった。もしや死んでしまったのか。そんな不安が名前の胸に広がり、体が動こうとする。しかし、その前に爆豪から手を捕まれた。彼はじっとこちらを見つめてくる。迷いのないまっすぐとした瞳。今の名前とは真逆だ。名前はその視線から逃れるよう、目をそらした。

「中を少々いじり気絶させた。死にはしない」

黒霧の気絶は、扉から現れたヒーロー、エッジショットの個性によるものらしい。体を細く薄く引き延ばし、音速を越えるスピードで黒霧の中に入り込み、気絶させたようだ。ワープ系の個性をもつ黒霧の個性を警戒しての行動なのだろう。それほど彼の個性は厄介というわけだ。

「さっき言ったろ。おとなしくしといた方が身のためだって。引石健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁、少ない情報と時間の中おまわりさんが夜なべして素性を突き止めたそうだ。わかるかね?」

グラントリノの声が静かに響く。敗北を認めろと諭しているかのようだ。

「もう逃げ場ァねえってことよ。なァ死柄木、聞きてえんだが…お前さんのボスは何処にいる?」
「……………………」

そこで、名前は違和感を覚えた。死柄木の様子がおかしくなっていることに、気づいたのだ。

「ふざけるな、こんな…こんなァ…こんなあっけなく…ふざけるな…失せろ………消えろ…」
「奴は今何処にいる死柄木!!」

「おまえが!!嫌いだ!!」

死柄木の叫びに応えるかのように、突如空間から黒い液体と共に異形の生物が現れ始める。まるで、化け物だ。今名前の声が出ていたならば、叫んでいたのかもしれない。

「脳無!?何もないところから…!あの黒い液体はなんだ!」
「エッジショット!黒霧はーーー」
「気絶している!こいつの仕業ではないぞ!」

あの生き物は脳無というらしい。何でこんな恐ろしいものを敵連合が所持していたのか。また、この生き物たちは何処に隠されていたのか。名前はさっぱり分からない。
その脳無たちは次から次へと空間から現れてくる。名前は周囲を見渡した。ヒーローたちは突如現れた脳無に意識が向いている。動くなら今しかない。

「あっ!てめえ!」

素早く爆豪の手を払い、名前は木に縛られた荼毘のもとへ向かう。その継ぎ接ぎだらけの肌に手を滑らせ、脈を確認する。とくとくと動いている様子にほっと安堵の息を吐いた。触れたその肌は火傷しそうなくらいに熱い。恐らく火を出そうとしたのだろう。その前に気を失ったみたいだが。顔に触れる手に吐息の感触も覚え、名前は思わず彼を抱き締めた。

荼毘先輩、ありがとう。守ってくれて、いつもありがとう。
伝えたい。ちゃんと名前の言葉で、この口から。いっぱい伝えたいことはあるんだ。

そのためにも、早くこの場から逃げねば。名前は荼毘の身体に絡み付いた木を剥がそうとそれを引っ張る。だが、もちろんびくともしない。それでも、諦めずに何度も叩いたり引っ張ったりしていたら、ふいに吐き気が込み上げてきた。

「うえっ!!」

口から黒い液体が吐き出される。次から次へとそれは口から溢れだし、名前の体を覆っていく。なにこれ。どうなるのこれ。意味がわからなくなりながらも、名前は黒い液体の隙間から見えた荼毘に手を差し出す。
しかし、その手が届く前に黒い液体は名前のことも、また荼毘のことも飲み込んでしまったのだった。