「お前ら、10周追加!終わるまでトス練やるんじゃねぇぞ」
「ひぃー」

相変わらず馬鹿でかい藤堂先輩の怒号と、俺の情けない悲鳴にグランドの部員達がどっと笑い出す。

笑い事じゃない。昨日も走り込みで練習時間を費やしてしまった。勘弁してほしい。
半泣き状態で、それでもヒーヒー言いながら必死に走っていると、一歩前を走る三好が「さっきの続きだけどさ」と話しかけてきた。中学時代、陸上部に在籍していたという三好は俺と違って持久力がある。既に3キロは走っているというのに涼しい顔で口元に笑みすら浮かべていた。

「さっきの話って…?」
「ほら、姫に付き合ってる男がいるのかって話」
「ああ。お前…何か情報でも仕入れたの?」

姫に彼氏がいるという噂はこれまでにも何度か聞いた事がある。剣道部の主将。野球部のイケメンエース。父親が中小企業の社長だという生徒会の役員などなど。でも、結局はどれもこれもデマだった。姫を本気で狙っている誰かが、彼女に近付かせないために嘘の噂を流しているだけなのだ。

「付き合ってる奴はいないと思う。でも、好きな男はいる」
「は?何だよ、それ。片想いしてるっつー事?姫が?ありえねぇ」

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