俺は鼻で笑い、地面を蹴った。汗が顎から滴り落ちる。真夏の炎天下に長距離の走り込みはまさに地獄だ。
息苦しさに顔をしかめていると、ゆらゆらと揺れる陽炎の向こうに、ぼんやりと姫の姿が見えた。部室の前だ。背の高い男と楽しそうに話している。二年の各務先輩だった。

「そもそもさ、姫が何でサッカー部のマネージャー志願したと思う?」
「さぁ…」
「好きな男がいたからだよ」
「え…」

三好はニヤリと白い歯を見せ意味ありげに頷いた。どうやらかなりの確信を持っているようだ。確かな筋からの情報なのかもしれない。
俺はゴクリとツバを飲み込み、姫をチラリと盗み見た。姫はまだ各務先輩と話している。さっきよりも距離が近づいている気がした。

もしかして…

「相手は…各務先輩とか?」
「違う違う。あの人、同学年に彼女いるじゃん」
「じゃ、誰だよ」
「逢沢先輩」
「えええー!?」

驚きのあまり、俺は立ち止まってしまった。あまりにも意外な人物だった。確かに逢沢先輩は女子にモテる。しかし、彼氏にしたいとか…そういった類の「モテる」ではない。マスコット的な意味で人気があるのだ。

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