じわじわと浸食

何を考えているのか今一わからない、その態度が嫌い。
本気か嘘か、その判別がきちんとつかないような言い方をする口が嫌い。
たまに見せる逃さないと言わんばかりにギラついて揺らめく、その瞳が嫌い。
私に平温より少し高い温度の方が気持ちいいと言う事を教えた、その肌が嫌い。
痕が残るほど乱暴に扱うかと思えば、火傷してしまいそうなほどじっとりと触れてくる、その大きな手が嫌い。

エースの好きなところなんて一つもない。
だから、私がエースと一緒に居る必要なんてどこにもない。

「お前は解ってねェな」
「十分解ってると思うけど」
「いーや、お前は解ってねェよ」

自分の嫌いなところを、これでもかと言うほどはっきりと言い放たれたというのに、エースは嬉しそうにニヤニヤと笑っていた。
普通こんな事を言われれば、落ち込むとか激高するとか、そういったあまり良くない印象を受ける態度に変わるもんじゃないだろうか?
だけど、目の前のエースは頬杖を突いて嬉しそうに笑っていて、その普通とは違った反応に私は首を傾げるしか出来ない。
今現在、確かに別れ話をしているはずなのに、私達の間にそんな雰囲気は微塵もない。
おかしいな。予定では、今頃別れが決まってすっきりしている頃な筈なのに。

一人、エースの嬉しそうな顔をぼんやりと見つめながら考えていれば、じゃあよ…と、その表情よりも更に嬉しそうな声で、エースは次の質問をしてきた。

「お前ェは、どうして今挙げた事が嫌なんだ?」
「どうして?そんなの嫌だからに決まってるでしょ?」
「違ェよ。だから、どうして俺が本当か嘘かわからない事を言ったりすんのが嫌なんだ?って聞いてんだ。そう感じるには理由があるだろ」
「それは…」

そんなの解らない。
嫌いだと思うから嫌い。
これって、何か可笑しい事?

「お前ェ本当に馬鹿だな」
「エースに言われたくない」
「馬鹿だ、馬鹿」

プハハッ、と笑ったかと思えば、あっという間に頬杖を突いていた顔が目の前に迫ってきていた。
大きな手で少し強く私の二の腕を掴むと、底から這い出るような低い声が、吃驚するほど艶やかに耳の傍で舌なめずりをした。

「そういうのを、どうしようもないほど溺れてる、って言うんだよ。馬ァ鹿」

畜生。

自覚する前に逃げたかったのに。


(2008/08/29)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -