過去と素顔

一息ついて再び書きかけの報告書へと目をやると、報告書は向かいの席にいつの間にか座っていたカカシが目を通していた。

いきなりの登場に思わず目を剥いて驚いてしまう。

「――ちょっ…と!吃驚するじゃない!いつから居たの」
「んー?最初から居たよ。シカマルは気づいてたけどねェ」
「え?ちょっと待って、だって誰も居なかった――」
「お前来た時は反対側で寝てたの。起きたのはさっき」

本当に吃驚した。誰も居ないとばかり思っていたのに。

これは本格的に疲れてるのかもしれない。いつもなら幾ら反対側に居たからといっても気づく。

五代目に休暇を貰ったほうが身のためかも。これじゃいつか気を抜いて死んでしまう。

「お前が色々ねー…」
「何よー、無理だって言うの?」
「いやー?別にいいんじゃなーい?」

当人は笑ってるつもりなんだろうけどあまり笑っているように見えなかった。

子供の頃のように笑う事はもうないけれど、カカシが笑うときはもうちょっとソフトだ。
それに、そうやって適当に肯定されると少し自分の魅力について考えてしまう。

その辺も考慮してのあの返答ならば、まったく嫌な男に育ったもんだ。昔のストレートな言葉の方がまだ聞いていて気持ち良い。

「ま、あいつがお前を相手にするとは思えないけどね」
「そんな事ないよ。だってシカマルの初恋は私だもんね。嫁にだってなるんだから!」
「それは年齢的に無理でしょ」
「わっかんないよー?シカマル年上好きかもしれないでしょ」
「年上――って、お前幾つ上だと思ってんの」

シカマルが今15歳だから…と指を折って数えてみて愕然とした。

10歳どころかそれ以上離れてる。あの子が20歳になった頃には私は三十路街道真っ只中だ。

流石に無理があり過ぎるだろうか。でも、誰にだって年上に憧れを持つ時期はあるんだから可能性だってない事はないはず。

…はず?はずってなんだ。なに真剣に考えてるんだろう。

「はあ……そっか。なんか落ち込んじゃうなー」
「歳には勝てないね。無理がきかなかったりさ」
「そうそう。なんか疲れが溜まる一方なんだよねー。いいなー前途ある若者。これからだもん」
「そこまで言うほど?…少し休養したほうがいいんじゃない」
「んーん、疲れとかそういうのじゃなくてね。なんていうか…あの時期って素直に行動出来るでしょ?言いたいことだって言えるしね」

年を重ねれば重ねるほど、人よりも立場が上になっていくほど、段々と口数が減っていってしまう。

年齢や立場を考えて言葉を選んで、本当に言いたいことなんて別のところにあるのに言わない。

ただ格好つけたいだけなのかもしれないし、組織社会に染まっちゃったのかもしれないけど、それってどうなんだろうか。

シカマル達のように言いたいことを言える方が良い場合もあるんじゃないだろうか?それで失敗するのがわかっていても、言ってすっきりするならそっちの方が何倍も良い気がする。

「言いたいことって?」
「そうだなー…あ、五代目に休暇下さいって言うのとか」
「うん。――で、他には?」
「んー……まあ、色々」

そこで終わり、そういうつもりで濁して、取り返した報告書の空欄を埋めるため視線を落とした。

その他の事が簡単に言えたらこれほど楽なことはない。けど、これは年齢や立場なんて関係なしに一生口にする機会はないし、するつもりもない。だからこそ、取り返しがつく若いシカマルが羨ましいのかもしれない。

――あ、そうか。私はシカマルが羨ましいんだ。

ふうん、なんて興味なさそうに返されながら席を立ったもんだから、てっきりそのまま待機所を出て行ってしまうのかなと思ったけれど、備え付けの自動販売機でお茶を買うために席を立っただけだった。

おまけに珍しく私の分まで買ってくれて、なんだか気を使わせてる気がしないでもない。

「ごめん、なんか本当に心配させてるっぽいね。そんなに疲れた顔してる?私」
「うん?んー、ちょっとね」
「別に寝不足なだけだって」

大したことはないよ。と言おうとした時、ずっとずっと昔から見てきた顔が口布の奥から現れた。

ただお茶を飲むだけだと分かっていても思わず目を逸らしてしまう。

それを誤魔化す様に三度空欄を埋めようとしたけれど、気になってもう一度目だけカカシの方へと向けた。じっくりじっくり、でも気づかれないように。

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