*慎吾さん目線。



俺が楽得霧人という人物を知ったのは一年の五月あたり、スポーツテストの時だった。
県内有数の私立進学校であるここ桐青には、当然のことながら一般のクラス以外に特別進学クラス(つまり頭のいい奴らばっかいるクラス)やスポーツ専攻、芸術専攻の奴らが集まるクラスがある。俺は可もなく不可もなくな成績だったから真ん中あたりのクラスで。体育の授業は男女別4クラス合同でやるが、なんの因果か、俺らのクラスはその特別進学クラスと合同で授業する事になったのだ。
特別進学とつくからにはまあ、想像つくだろうが、そのクラスは所謂ガリ勉!みたいな、なんかひょろひょろとモヤシみたいなのが多い。実際運動神経もあんまり良くなさそうで、こいつ等とクラス対抗とかチームくんだりすんのか、と友達と一緒にため息をついた。

四月下旬から五月上旬にかけて、桐青高校では体力テストが行われる。中でやるもの(握力とかシャトルランとか)と外もの(50mとか遠投とか)を効率よくやれるように、2クラスに分かれる事になったのだが、またなんの偶然か、ガリ勉クラスと一緒になった。

俺たちはシャトルランを先にやるらしく、クラスごと一列に並んだ隣の奴の回数を数える事になった。俺がくんだのは、やっぱりほっそいモヤシがメガネかけたような奴で、競技の邪魔にならないように壁際によった際、クラスの奴と笑いあった。

「何回いくんだろうなー」
「誰も100いかねーんじゃね?」
「まあいかにも運動出来ません!みたいな体型じゃあなあ」
「すぐ俺たちに順番まわってきそうだよな」


だけど、特進=ガリ勉=運動出来ない、なんて安直な考えは間違ってると、痛感させられる事になった。

シャトルランの男子高校生の平均は80前後だ。つっても、県や全国での平均だから、運動やってる奴でも無ければ平均なんて早々いかないだろう。案の定、50回を超えたあたりからポツポツと人は減り、80回あたりでこの校内で一番広い体育館を走る奴は残り3人になっていた。

残った3人は、特進クラスの割に勉強してます感があまりない奴らだった。特に一番左(背の順で並んだ時後ろの方)で走る奴なんかパッと見180位はありそうで、頭なんかパーマがフワフワかかった金髪だ(俺も人のこと言えないけれど)。なんかモデルにでもいそうな外見である。また他の二人も似たり寄ったりで、一人は背は低めだが綺麗に染め上げた黒い部分が全くない茶髪がなびいてるし、もう一人は黒髪短髪でサッカーやってそうな感じだ。背も高い。そんな三人は80回をまわってもまだだいぶ余裕そうだった。

すると、一番背の低い奴が声を上げた。

「たっくん!満点て何回?」
「125回以上!」
「よし、じゃあそれ行かなかったら罰ゲーム!霧人も強制参加ー」
「えー」

霧人と呼ばれた金髪が抗議の声をあげた時、レベルアップの音が鳴った。相変わらず余裕なのか三人とも足取りは軽そうだ。だが、100を10過ぎた位で、一番背の低い奴のターンが大回りになってきた。

「祐、リタイヤしていーんだぞー」
「…うっせ!」

たっくんと呼ばれていた黒髪と言い合いしていたのが祟ったのか、結局レベルアップの音とともに祐(茶髪)はリタイヤした。そいつは叫びながら20mシャトルランの真ん中あたりに大の字で寝っ転がった。

「あー!あと7回だったのにっ!」
「罰ゲーム忘れんな!」
「無し、とかだめ?」
「言い出したのが悪いんだよ、祐」

茶髪の言葉に黒髪と金髪が交互に返事する。もう100を越してんのに余裕だ。でも、黒髪のほうは若干辛さが見える。と、黒髪が金髪に話しかけた。

「もうきつい。俺、125で辞めるわ」
「えー、じゃあ俺も」
「150いったらお昼奢ってあげるよ霧人ー」
「よし、その言葉忘れんなよ」

そう言うと、さっきまで(もう120いくのに)めんどくさそうに走ってたのがやる気が出たように見えた。

125を超えて、宣言通り走るのをやめた黒髪が歩きながらみんながいる壁のほうへ来る。それに合わせて、大の字で寝っ転がってた茶髪も一緒に戻ってきた。

「霧人あれ、マジで150いくつもりなんかな」
「だろ。祐、お前は財布の中身と罰ゲームの心配したほうがいいんじゃねーの?」
「あー、霧人!さっさとリタイヤしろ!」
「まさか!」

そんな言葉を交わした後、結局金髪は150回ピッタリに走り終えた。

「…つかれたー」
「マジでいくと思ってなかった…」
「口は災いの元だな。お疲れさん。水飲むか?」
「貰う。あーあ、ほんとは10点とったらやめようと思ってたのに」
「だったら辞めとけばよかったじゃん!張り切ってたくせに!」
「いや、奢ってくれるって言ったからさあ。調子ノった」
「霧人のばか!」
「いや、あんな事言った祐が悪いだろ」
「罰ゲーム忘れないでね」
「うわーっ」

金髪は黒髪と一緒に茶髪にそうとどめを刺して、受け取った水に口をつけた。その横で茶髪が騒いでいるが、他の二人は我関せずで軽いクールダウンがてらにストレッチを始める。次は俺たちのクラスだから、ウォーミングアップの為に軽く動けと先生が言った。俺は両隣にいた二人(最初一緒に話していた奴ら)を誘って体育館を一周走る事にした。みんなが好き勝手に別の事をしている為、体育館内は一気に騒がしくなった。

「80以上の奴いたなー」
「それどころか125超えた奴二人も出たし」
「一人は150までいったしな。あいつ等まじで特進か?」
「あの二人がすごいからあれだけど、茶髪の奴も特進の割にすげーよ」
「文武両道かあ」

俺等は歩きより少し速い位の早さで走りながらさっきの奴らの話をした。特進=運動音痴的な固定観念は崩された訳だ。

「そう言えば思い出したんだけど、あの金髪の方、外部入試一番で満点近く取った奴だ」
「はあ?あの見た目でか?」
「天は二物以上与えた訳だ。勉強できて、運動できて、かっこいい、と」
「ああ、ずるい!」

彼は、先入観で物事を考えちゃいけない、その代名詞だと思った。それだけ俺等の印象にそいつは強く残ったのだ。それは他のクラスメイトも一緒だったようで、シャトルランをやり終えて、体育が終わっても話が尽きる事はなかった。

そんな話題の中心人物が、楽得霧人という名前で、ひょんなことで仲良くなって長い付き合いになることなんて、"すごい奴が特進にいる"というレベルの認識でしかなかったその時の俺には考えもつかないことだった。


青春ランナー



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予想以上に長くなった。一応慎吾目線。名前出てないけど。
特別進学クラス(特進)は捏造。簡単に言えば、入学金・授業料免除の子がいるクラスです。…桐青てどこがモデルでしたっけ。
祐くん・たっくん(オリキャラ)は今後出るような、出ないような。頻出するようなら設定に追加します。



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