放課後、SHRで担任が解散を告げるやいなや、俊介はあっという間にいなくなってしまった。どうやら部活に一番乗りしたいらしい。
彼曰く、『俺の青春はこれから始まるんだ。最終的には部長とレギュラーになるわけだし、やる気見せとくにはここは一番乗りで行くしかないよな!』だそうだ。

残された俺は前の席にいる水谷を見る。すると水谷は机の上に鞄を広げたまま扉の方をみて固まっていた。

「水谷?」
「うわー、早いよ櫻井!」
「青春なんだってさ」
「え?」
「いや、なんでもないよ」

用意しないのか、と促せば慌てて今日配られたたくさんのプリントや冊子を鞄に詰めはじめる。そんな慌てるなら、配られた時に鞄に入れちゃえばいいのに。そう、あたふたしてる水谷を見ながら考えていれば、いつの間に終わったのか水谷はこちらを振り返っていた。

「仲苑も野球部入らない?」

朝、俺が部活を決めてないと言ったことを覚えていたらしく、水谷はそう言った。俺は曖昧に言葉を濁しておく。

「…考えてみるよ」
「そっか。俺これから野球部見に行くんだけど、一緒に行く?」
「いや、今回は遠慮しとく」

ちょっと用があるからね、と首を振って苦笑する。そうすれば、水谷は少し残念そうにしながらも俺に、またあしたと告げて教室をでていった。


++++



職員室からでた俺は、校内をうろついていた。先生との話はそこまで長くかかった訳ではなかったから、俊介はまだ部活だろうし、家に帰る気にはなれなかったのだ。
今日のSHRで配られた、野球はここ、と簡単な地図に星がかかれているプリントを手に野球部のグラウンドへ向かう。
水谷には遠慮しとくと言ったが、暇だし、遠くから眺める分にはいいかと思う。

グラウンドに着けば、外野無しの守りで勝負か何かをしているのが見える。だが、今いる場所からでは本当に何をやっているかまでは分からなかった。
仕方ないので、見つからないように場所をずれる。すると、フェンスの近くでグラウンドを見ている女の子がいた。肩にかかるくらいの長さのふわふわした髪は何故か不安そうに揺れている。近づいて肩を叩けば、想像以上にびくりとはねた。

「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど」
「あ、こっちこそごめんね!」

急に肩を叩いたのはまずかったかと詫びれば、彼女は驚いてしまったことが恥ずかしかったのか、パタパタと慌ただしく手を顔の前で振りながらそう言った。

「ほんとごめんね。何で入らないのかって不思議に思って」
「入ろうと思ったんだけど…」

なるべく安心させるように言えば、彼女はなぜか顔を青くして言葉を濁す。

「何かあったの?」
「…夏みかんがあんなに綺麗に潰れるところ、初めてみた」
「え?」
「あ、ううん。なんでもないよ!じゃあ私帰るね」
「…いいの?」
「うん、一日考えてみようと思う」

俺がそうか、と返せば彼女は困ったような苦笑いを浮かべた。その顔は、野球部には関わりたいけど、というのがありありとみえて、俺はつい口にしていた。

「野球、好きなんだね」
「うん!野球してる人はみんなキラキラしてみえるから!」

俺が思わず口にした言葉に、彼女は夕日の光以上に輝く笑顔でうなずいた。そしてまたあした、と手を振ると背を向けて走って行ってしまった。


(あ、そういえば名前聞いてないや)

彼女が去った後、名前を聞かなかったことを後悔しながら彼女が見ていたフェンスの向こうに目線を移す。中では、いつの間に勝負が終わったのか、みんなグラウンドの屋根つきのベンチ辺りに集まって何かをしているようだった。

「野球、か」

そう呟いてポケットの中で振るえた携帯を取り出して画面を見れば、俊介からのメールだった。どうやら部活は終わったらしい。“まだ学校にいるから校門で待ってて”、とそのメールに返信し、俺は沈む太陽で色が変わったグラウンドに背を向けた。



オレンジ色の迷い事




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -