なんだ、これ。

 咄嗟に理解できない異様な状況に、思わず浮かんだのは間抜けな疑問だったが、許して欲しい。つか、この状況を瞬時に理解できるやつがいるならお目にかかりたい、ほんと。

 大体、俺が今“思考”出来てること自体が“異常”なのだ。だって、ローレライ解放後起こったであろう大爆発で、俺は俺の被験者であるアッシュに取り込まれて消滅した、はずだ。大爆発は起こらなかったのか?いや、それはない。難しいことは俺にはわかんないけど、フォミクリーを発明したケテルブルクの天才、ジェイドが言ってたんだから間違いないと思う。それに、もし大爆発が起こってなくっても、ローレライの解放時に解き放たれた膨大な力に、レプリカの俺は耐えられなかったと思うし。

 音素集合体の持つ力はそれほどまでに強大だった。そしてそんな集合体を身体の中に閉じ込めていたヴァン師匠はやっぱり凄い人だったということだ。

 そう、凄い人だった。

 “栄光を掴む者”として預言に詠まれ、ホドを滅ぼす力として使われたヴァン。それは、キムラスカ繁栄の先駆として、アグゼリュスとともに消滅すると詠まれた“聖なる焔の光”である“ルーク”とよく似ていた。
 だからこそ止めたかった、のに。彼の中に広がる闇は深かった。それこそ彼の妹であるティアや幼馴染だったガイを最終的に切り捨てていけるほどには。信じていた、本来ならば民を守るべき国に裏切られ、大切な者を自分自身の力で滅ぼしてしまった。その事実は幼いヴァンデスデルカの心に深い傷を与え、民を裏切った国を、また、預言に傾倒してホドの消滅に疑問を持たなかった人々を、そして、そんな状況を作り上げた預言という世界の理をひどく憎んだのだ。
 世界に失望した師匠が考えたのは、世界をレプリカで作り変えることだった。師匠は、人間も、大地も全てリセットして作り変えようと考えたのだ。彼が空中に浮かせた大地・エルドラントは、師匠やガイの故郷であり、彼らの幸せの絶たれた場所であり、俺の旅が始まった原因、つまり全ての始まりの場所、ホドのレプリカだった。かつて、栄光の大地と呼ばれたその土地のレプリカの上で、俺達は対峙することになる。

 師匠は俺の言葉になんか揺るがなかった。そして、自分を止めたければ、この先の未来を自分の意思で生きる意志を示せとばかりに、最後の戦いを挑んだ。結局、俺らは師匠を止めることが出来なかったのだ。いや、止めるというのはおこがましいのかもしれない。結局、あの人は最期の最後まで、自分の信念を貫き続けた。俺はこの手で師匠の命を絶った。始まりがあるからには終わりがある。俺達は未来を自らの選択で、意思で生きるためにも、彼の負の感情と彼らの計画を終わらせなければならなかったんだ。

 先生を倒した後、俺はローレライを解放した。エルドラントに突き刺した剣を中心に、辺りを膨大な量の第七音素が覆いつくす。ローレライの力に当てられて崩壊していくレプリカ大地の中で、俺は全てが終わっていくことを実感した。ローレライの解放とともにこの世界の理だった預言もなくなる。預言に左右された犠牲がなくなるのだ。この先の世界を、オールドラントの人々が預言のなくなった世界でどうやって生きていくのかを、俺は見ることが出来ないけれど、預言がなくなって戸惑う人々は俺の仲間がいい方向に導いてくれるだろうと思った。なんてったって俺の仲間には、マルクトの陛下に、懐刀の死霊使い殿に伯爵殿と、キムラスカの王女様、ローレライ教団の有望人形使いと音律士がいるのだから。

 みんな良いやつなんだ。だって、たくさん、たくさん、迷惑をかけたのに、わがままもたくさん言って困らせて、挙句の果てには街まで消して、どうしようもない俺なのに、みんな俺に「帰ってこい」って言ってくれたんだ。あのジェイドまで、「帰ってきてください、そう望みます」なんて、希望口にして、左手で握手したんだぜ。ガイも、アニスも、ナタリアも、ティアも、みんな口をそろえて言うんだ。帰ってこなきゃゆるさないって。

 嘘ついてゴメン、約束守れなくてごめん。俺はそっちに戻れそうにないや。

 ―――目を開けよ、愛しき我が半身よ。世界は再び繰り返されようとしている。今度は好きに生きてみよ。

 ローレライの声が頭にはっきりと響いた。その言葉の通りに目を開けると、そこは俺の生まれた場所だった。俺はフォミクリーの装置の上に横になっていて、隣には俺よりも色の濃い赤を持った少年がいる。どうやら、俺は記憶を持ったまま昔に戻ってきたみたいだ。そう、この先の展開を知ったまま。
 これはチャンスなのではないか。アッシュも預言によって人生を狂わされた一人だ。そして俺は、アッシュの人生を奪ってしまった一人。この隣にいる少年が後のアッシュだとしたら(いや、確実にそうだろうけど)、俺は今、彼に“ルーク”を返せるかもしれない。この先の展開を知ってるから、タルタロスでの襲撃も、アグゼリュスの崩壊も、ルグニカ平野での戦争も、フリングス少将の死も、そしてアッシュと俺の大爆発も防げるかもしれない。イオンは、預言を“与えられた選択の一つ”だと言っていた。俺のこの記憶も、その選択なのではないか。
 与えられた希望の選択だと思った。向こうのみんなへの約束は守れないけれど、俺のこの、こっちでは俺しか知らない“記憶”を武器にして、こっちのみんなを守ろうと思った。

俺の、二度目の人生と戦いが始まる。



オープニングは突然に

さて、何から始めようか。


Title by 無神論

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