*セドリックの幼なじみ(男)の話。セドは死んだ後なので出てきません。



何が起きたのか理解できなかった。

周りで女子生徒の恐怖した甲高い悲鳴が上がり、見回りの先生が慌ただしく走り回っている。隣から俺の名前を呼ぶ友達の焦りの色を含む声が聞こえる気がするが、如何せん頭が働かなかった。身体も立ち上がった体勢のまま動かず、ただただピッチを見つめるしかなかった。

だってそうだろう。

緑の葉の生い茂る木々で出来た薄暗い迷路の出口でその存在を主張していた黄金輝くトロフィーは、セドリックとハリーポッターが触れた瞬間に二人諸とも消え去り、今は無造作に地面に転がっているのだ。
トロフィーは戻ってきた。ハリーポッターも戻ってきた、トロフィーを片手に握りしめて。じゃあセドリックは?優勝してやるってあんなに自信満々だったのに!セドはどうしたんだ?なんでハリーポッターは泣き叫んでる?ハリーポッターが縋り付いてるのは誰だ?地面に横たわってるあれはだれだ。


だ れ だ ?






大広間は黒い幕のままに終業式を終えた。何処の寮が優勝したのかなんて知らないし、どんな料理が出たのか、自分が何を食べたのかさえも覚えてない。
ただ、この深海の底に沈みきった気持ちを持ったまま、今の俺の気持ちに合わない馬鹿みたいに真っ赤な列車に乗って、ロンドン駅の9と4分の3番線なんていう馬鹿げた名前のホームへ帰らなければいけない事は事実だ。

「すみません」

じっと憎たらしい赤を睨みつけていると、前から声が聞こえた。聞いた事のある声、それは

「ハリー、ポッター」

そちらへ目線を向けると少し見下ろす位置に声の主がいた。両脇に少し背の高めの男の子と髪がふわふわした気の強そうな女の子がいた。目が合うと名前を確認されたからそうだと頷く。と、顔を強張らせて、ハリーポッターは口を開いた。

「セドリックからあなたへ伝えてくれと頼まれました」

俺より低い所にある彼の目は二学年も下だとは思えないほどしっかりとしていた。彼はセドリックの死を間近で見ていたはずなのに、彼の目は今の俺なんかよりちゃんと前を向いている。ハリーポッターは再び口を開いた。それは、セドリックのゴースト(例のあの人の杖から出てきたらしい)が最後、俺に、父親のエイモスじゃなく俺に伝えた言葉だった。

「約束、覚えてるかい?僕の願いは、そうだなあ、君が君自身の夢を叶えることかな。僕の事を思い出すのは時々でいい。どうか先に逝く僕を許してくれ」





「約束」

静まり返ったコンパートメント内に俺の声が響いた。セドリックの残した言葉を聞いた後、ハリーポッター達と別れた俺は一番後ろのコンパートメントに乗った。人払いの呪文に扉に鍵を掛けたコンパートメントには俺しかいない。

約束。それは対抗試合の最終戦が始まる数日前にセドリックと俺とで交わした賭けの様なものだ。もしセドリックが優勝したら俺が、ダメだったらセドリックが一つ相手の言うことをきくという在り来りなもの。
俺の夢は闇払いになることだ。賭けでは単独優勝だなんて言ってなかったから、俺はその夢を叶えなければいけないのだろう、本当ならば。でもセドリックは間違ってる。間違いだらけだ。
俺が闇払いになりたいと思った根底にはセドリックがいるのだから。セドリックが幸せに暮らせるように悪い奴をやっつける。それが、幼い頃の俺の思いで、今までもそれは変わることはなかったのに。

「ばーか」


俺の夢はセドリックがいない今、もう叶うことはないのだ。


エンドロールには遅い

窓の外でクルクルと移り変わっていく景色に、急に悲しくなった。
セドリックが亡きがらのまま帰ってきてから、黒い幕の下ホグワーツの一年が終わってこの赤い列車で帰るまで、その間たった数日しかなかったにも関わらず、笑顔で思い出を語り合う人が沢山いるのだ。そりゃあセドリック・ディゴリーという人物を知らなければ、同じ学校の他人が死んだだけの話で、後を引きずる程の衝撃ではなかったのかもしれない。(俺にとってセドリックは、幼なじみであり親友であり、そして最高の好敵手で、この先学校を卒業した後もこの関係は変わらず続いて行くんだろうと考えてた人が死んだのだから、笑ってられる彼等を冷たい奴だと思うことくらい許して欲しい。)
けれど、年月が経てば俺も彼と一緒にいた時間を忘れて、普通に笑って彼を思い出す事も少なって、笑顔で彼のいない世界を闇払いとして守っているのかもしれないと考えると、なんだか怖くなった。

Title by 藍日


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -