俺の前に立った彼が発する言葉は俺に対するストレートな嫌悪でしかない。そして、それが発せられる理由が俺自身にあることも(いや、俺自身にしかないことも)十分に理解している。わかってる、わかってる。それでも体はこの池袋に向かってしまうのだ。

俺がここへ来れば、レーダーがついてるんじゃないかってくらい確実に俺の存在を見つける彼。嫌いならわざわざ見つけなきゃいいのに、寄って来なきゃいいのに、無視すればいいのに。期待しちゃうじゃないか。彼が俺を見つけるのは無意識に俺を意識しているからだとか、実は彼も俺の事を見てくれてるのだとか、なんて乙女だそれ。

でもそんな淡い期待と共に俺に降り懸かるのはそれが絶対にありえないという事実だ。彼は初対面の時、野性の本能的に俺の事を拒絶した。その時の俺は彼の事をこんな気持ちで見ていた訳ではなかった(むしろ噂以上に本能的な奴だと思ってた)し、だから彼が俺を見る度眉間のシワが増えることをなんら不思議と思ってはいなかったし、それが当然のことだともわかっていた。

だけど、いつだっただろうか。覚えてなんかないけれど、いつの間にか、そう、いつの間にか、俺は彼にこんな気持ちを持っていた。彼のあの規格外の力も、専ら芸術的な暴力も、眉間によったシワも、時折見せる優しさも笑顔も、総て俺のものにしてしまいたいほどに。

俺が何も告げなければ、この、信じられないくらい甘い感情を俺の中だけに閉じ込めて置けさえいれば、彼と俺の殺伐とした関係は永遠に続くのだろう。それで良いはずなのに、それを望んでこの関係を続けているはずなのに、俺の中の(笑えるだろうが)所謂乙女的な感情は、今の状態を壊したいと感じている。

なんで。なんで俺だけが好きなんだろう。彼も同じ気持ちであれば、俺はこんな青臭い悩みなんてしなくてもいいのに。


でも違うから。


彼が俺を嫌いなのだから、だから俺も彼を嫌いになる。だって、俺には無理だ。人間が好きだと言ってもそれは興味の対象でしかないし、遠くから観察したり少し掻き混ぜてみたりするのが好きなのであって、だから人間の方も俺を愛するべきだとは思っても、人間に嫌われる事で俺がどうにかなるわけじゃない。だけど、彼は違うのだ。彼は俺が“人間”と括るものの外側にいる。俺が唯一“人間”という一つの括りから外して興味を持った、好意を持ったやつなのだ。俺は自分が本当に好きなやつから嫌われて平気なほど、出来たやつでもない。


意外と人間やってるんだよ、俺。


「いーざーやー、ここに来んなっつってんだろーがよお!」

ほら、今日も彼は俺の名前を呼ぶのだ。彼の持つ最大限の怒りを以って。

「煩いなあ、シズちゃん。周りの事とか考えられる頭ないの?」

そんなんだから、俺の気持ちに気付かないままなんだよ。



壁とか距離とか、そうゆうのが欲しい
(すっぱり諦められるほどの気持ちだったらよかったのに)




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