「ゆっきーは凄いですね」
「…え?」

夏目ちゃんは唐突に言葉を発することがある。今回もそれの類だと思うけど、なにがどうで凄いのか推測できることなんか無くて、私の口からは気の抜けた声がもれた。まあ、『はあ?』とか言わなかっただけいいんじゃないかと思うのだけど。

「ゆっきーにはたくさん友達がいるじゃないですか。かわいくて、頭もよくて運動も出来て、そんでみんなに好かれてて」

私の前の席に座って、椅子をシーソーのように揺らしながら夏目ちゃんは言う。ちゅーちゅーパックのいちご牛乳を飲んでる夏目ちゃんからは、その真意は読めそうにない。私に分かることと言えば、その席は村上くんという子の席で、夏目ちゃんが座ってることを下柳くんに自慢してるということだけだ。と、私が考えてる間にも夏目ちゃんのお話は進んでいくようだった。

「優しくて、友達もたーっくさんいて。やっぱりゆっきーは凄いんです」
「なにが言いたいの?」

ちょっと冷たかっただろうか。でも、夏目ちゃんの中では簡潔してても、私には何にも分からなかったのだからしょうがないと思う。とか思ってたら、当の本人はきょとんとした顔でこちらを見ていた。いつの間にかシーソーは止まって、私と焦点が合う。

「どうしてゆっきーは私といっしょにいてくれるんでしょう」
「へ?」
「ゆっきーは私とは違います。私はちょっと運動神経がいいだけの奴です。顔は良いけどそのせいで友達はいなくなりました。ゆっきーとはほんと、正反対で。どうしてゆっきーみたいな人が私なんかと一緒にいてくれるんですか」

そう言った夏目ちゃんは、また椅子のシーソーを再開した。ちゅーちゅーとイチゴ牛乳が吸われていく。その様子は、さっきの言葉が何の意味も持たないようで、拍子抜けしてしまいそうだ。

でも、夏目ちゃんは間違っている。今の話を聞く限り、夏目ちゃんの中の私はなんだかとても素晴らしい人のようになってるけど、実際そうかといわれれば、私は自信を持ってノーと言える。特に“優しくて”なんて、鼻で笑いたいくらいだ。

私は私を作ってるのだ。といえば、人間誰だって自分をよく見せようとしている部分はある、なんていわれるかも知れないけれど、私の場合は度が過ぎてると思う。自分自身でも。私は自分の見た目がまわりにどう映って、どんな風に作用するのか、ということをちゃんと理解してる。だから、この容姿が他人の恋愛にとって邪魔な存在になりえることも、たとえ私がその“恋愛”の“登場人物”を知らずとも巻き込まれてしまうことがあることもちゃんと分かってる。だからこそ、常に周りの様子を伺って、いつでも先回りできるようにしてきた。そういう場面に合ったときも決して一人にならないように味方も作った。

私が優しいのは、憎まれないため。全てを計算して行動してる。私は私という人間像を一から人工的に作り上げているのだ。当然周りは私の計算に気づいてない。

でも、だからこそ、私には本当の意味での“友達”なんかいなかった。本気で私の悩みを打ち明けられるような、本音を言えるような相手なんていない。夏目ちゃんの思う友達というのは多分、そういうことが出来る関係の人だ。いわゆる、親友って奴。でも、一に人を疑うようにしている私にはそんな関係を作れるわけがないのは言うまでもなくて。そう考えると、なんだかかなしくなる。

「居たいから、じゃだめ?」
「え?」
「一緒にいる理由。居たいからじゃダメかな」

そう思ったら私はそう口走ってた。夏目ちゃんの座っている椅子がガタンと音を立てて床に落ち着いた。夏目ちゃんはというと、イチゴ牛乳のストローを加えたままこっちを見て固まっている。元から大きな目がさらに大きく見開かれていてなんだか面白い。

「私は夏目ちゃんのいいところもいっぱい知ってるよ。いつも一生懸命なのも。もちろん、同情なんかじゃない。私は私の価値観で夏目ちゃんを見て、それで一緒にいたいと思った。それじゃだめ?」

「…やっぱり、ゆっきーは凄いです」

そういうと夏目ちゃんはへらりと笑って、また椅子のシーソーを始めた。
ふと口走ったその理由はもしかしたら私の本音なのかもしれない。ちょっとおバカだけど、いつも一生懸命で、“友達”に憧れを抱くほど純粋で、いつでも感情豊かに表情がころころ変わって。そんな夏目ちゃんに私は無意識にあこがれていたのかも知れない。


十六の患う唇

TITLE BY 子宮

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