*大学生設定。



部活が珍しく午前だけで終わり、入学式の時仲良くなった同じ学部の奴と昼食食いに行く事になった。時間もあるし久しぶりに何かお洒落な物でも食べに行こうと、大学の最寄りから二駅先にある、美味しいと評判のイタリア料理店に向かう。
昼時が少し過ぎたこの時間、歩道もそれなりに人が行き交う。が、回りを囲む会社用に食堂やレストラン、中華料理店などが並ぶこの通りは歩道が広く作られており、ゆったり歩くことが出来た。

「たしかこの辺りだよな」

隣からお前も探せと言われ、視線をくるりと巡らせる。黒やグレーの波に混ざってカップルがいちゃついてるのを見て思わずため息が零れる。

「隣が準太なのが悲しいよな」
「うるせ」

同じ様なことを考えていたのか、隣で呟かれた言葉にいらっとして(つかなんでお前に言われなきゃならない)俺はもう一度周りを見渡してみる。

相変わらずスーツやカップルが目につく。しかしその中に視界の端に見覚えのある色素の薄い茶色が写ったような気がして、目をそちらに向けてみた。

「あ、」

…そして後悔した。

確かに知り合いだった。太陽の光を受けて一層明るく光る短髪は、毎日の様に見ている、でも見飽きる事はないそれだった。

「慎吾、さん」
「準太?」

そこは有名なアクセサリーショップの前で、彼の隣には緩いウェーブのかかった髪の女性がいる。二人は手を繋ぎながら表のショーウインドウに飾られたウエディングドレスと沢山の宝石を見ていた。

「あ、あの人準太とルームシェアしてる先輩だよな?」
「…ああ」
「横の人彼女かなあ。めっちゃ美人!準太なにかしらねーの?」
「いや…。そういう話、しないから」
「そっかあ。でもあの先輩モテそうだもんな」
「だ、な」

俺には彼等がとても幸せそうに見え、胸は醜くキリキリと痛んだ。



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レストランは無事見つけることが出来たし、料理も美味しかった、と思う。憶測なのは結局、味なんて覚えてないからだ。食べてる間もずっと、俺の頭のなかを巡るのは仲睦まじい二人の後ろ姿だった。料理の皿はちゃんとからっぽだったし、家の玄関前にいるということはちゃんと電車にも乗れたと言うことだが、何を頼んだのか、何話したのか、いつ電車に乗ったのか、ついに思い出せなかった。

「…慎吾さん」
「お、準太お帰り」

さほど長くもない廊下を歩き、リビングに繋がるドアを開けば、事の原因である慎吾さんは嫌なほどいつも通りに俺を迎えた。ソファに座って酎ハイ片手に微笑む彼は、昼間俺に目撃されてるなんて微塵も思ってないのだろう。それなりに値段のはった(学生には少々痛手の)イタリアンの味もよく思い出せないほど悩んだ俺を嘲笑うかのような彼にやる瀬ない。

「あれ、準太くん暗くない?どうし」
「今日どこいってたんですか」
「え?」
「今日どこいってたんですか」
「やだなあ。今日は和己達と久々に昼飯がてら集まるって昨日言って」
「嘘だ!」
「じゅ、んた?」

ああ、彼は平気で嘘をつける人間なのか。それ以上聞きたくなくて、俺は彼の言葉を遮るように叫んだ。ドロドロと憎悪が心を巡る。

「…嘘つき!じゃああの女の人は!花柄のワンピース着た、茶髪の綺麗な女の人は誰なんだよ!」
「ああ、見てたんだ?」
「っ!」

問い詰めるように吐き出した俺の言葉に返ってきた答えは驚きも戸惑いも感じられない真っ平なもので、息を呑んだのは俺だった。冷たく響いた声に心臓がわしづかみされたように痛む。こえがでない。めからなにかしみだしてる。こぼれるな、こぼれるな。

「準太」
「、」
「準太」
「しんごさ、」
「別れよう」
「なん、で」
「もうダメなんだよ。…ダメなんだ」

いつも、いつもそうだ。彼の一挙手一投足に心乱されるのはいつも俺で、あたふたした俺を余裕の表情で彼は見ているのだ。ほら、今だってそう。唇を噛み締めて、目から零れそうな涙を頑張って堪えてる俺の前で、何考えてんのかわからない表情をしてこっちを見てる。
歪んだ視界の向こうで慎吾さんの唇が開かれるのが見えた。


「準太の未来、俺なんかが奪っちゃ駄目だと思ったんだよ」


慎吾さんはそう言って、薄く微笑んで見せた。俺の頬には容量の限界を超えて溢れてしまった涙が伝ったが、彼がそれをいつものように拭ってくれることは無かった。


なんて、なんて残酷なんだろう。




言い訳としては不十分

(どうせならもっと大きな嘘をついてよ)



Title by 00?


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