君に言えなかった事がある


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1.シリウス・ブラックと彼女


「馬鹿ね」
「ああ、そうだな」
「でも信じてるの」
「、」
「世間は貴方を裏切り者の犯罪者だと言うけれど、私は貴方を信じてる」
「っ、なんで!」
「何年一緒にいると思ってるの。貴方がどういう人間かくらいわかってるわ」
「エリーゼ…」
「待ってるから」
「…」
「ずっと待ってるから。私は貴方が帰ってくるまで、あの子を見守りながら待ってる。だから、のまれるんじゃないわよ。正気保ってなさいよ」
「、ああ。…お前も大概馬鹿だな」
「…そうね」

さびしい

周りを取り巻く環境がガラリと変わって、それでもそこに彼らが、彼がいないことが本当は、泣きたくなる位に寂しかった。




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2.彼女とシリウス・ブラック


彼女がここを去って、普段からこの牢を、いや、アズカバン全体を包む冷気が戻って来て俺の肌を刺す。幸せの記憶を奪うその冷気に、ここが脱出不可能なあの牢の中である事を実感する。

彼女の言葉の力強さに思わず頷いたが、無実を証明して俺がここから出られる確率はかなり低い。何せ物的証拠がないのだ。証言したってそれを証明する確実な証拠が無ければ、俺を犯罪者だと決めつけているこの世界が俺の言葉を聞いてくれるはずがない。

大変な事に巻き込んでしまった、と今更ながらに罪悪感が募る。待っていると繰り返し彼女は告げたが、俺が戻る確証なんてどこにもないのだ。決意した事は必ずやり遂げる彼女の事だから、俺が戻らずとも一生を持ってしてでも俺を待つのだろう。俺のために人生を無駄にしてしまう。本当はあの場で必要ないと突っぱねるべきだった。けれどそれができなかったのは俺の弱さだ。わがままなのだ。

ごめん

それでも、待っていると告げた君の優しさに、強さにすがりたくて




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3.クィリナス・クィレルと彼女


正義と悪は紙一重である、と言ったのは誰だったか。そう説いた人に私は勲章を与えたいほどに深く賛同していた。なにを正義と説くのか、悪と取るのか、それは行動する側、受け取る側の価値観の違いである。彼らに苦しめられて来た人たちからすれば、こんな考えはドブに捨ててしまいたいほどに胸糞悪いものかもしれないが、例のあの人の持つ闇に惹かれた者にとっては彼が正義なのだ。自らの信念を持って、この魔法界を闇に染める彼にとっては、アルバス・ダンブルドアは悪なのである。

自分の価値観のみで善悪を決める事こそ、争いを生むきっかけになると私は考える。だから、彼がなにを思って、なにを信じて、なにを背負って行動していても、私は彼を止める気にはなれなかった。アルバニアに行ってから急に彼が、彼の考えが変わってしまった事は分かっていたが、彼が心から信じて正しいと思って動いているのであれば、私にはそれを止める権利はなかった。

「エ、エリーゼ…」
「いいのよ。貴方が信じるならば、それはそれで正しい事なんだと思うわ。私は止める事なんてしない」
「…」
「後悔だけは、しないようにね」
「…すまない」

行かないで

あの時、そう言えていたとしても、貴方はこの道を行くのでしょうね。




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4.彼女とリーマス・J・ルーピン


あの時、彼らを信じようと思えたのは君のお陰だったと、そう気づいたのはそれから何年もあとのことだ。彼らの感情が、行動が、私への同情でない事を信じることができたのは誰でもない君のお陰だった。
完璧に立てた筈の壁を何時の間にか壊してこちら側に来ていたのも君、私のこれは一種の個性で何ら恥じる事はないと言い切ったのも君、身体に無数にある傷を男の勲章だと笑ったのも君、幸せになるのに権利なんて必要ないのだから何を遠慮しているのだと言ったのも君、私のこれを知った位で離れて行くような薄っぺらい関係だったのか、彼らを馬鹿にするのも大概にしろ、と、そう怒ったのも君だった。

私は君にたくさんのものをもらうだけ貰って、何も返せていなかった。しかも、誰よりも優しい君にあげたものと言えば、勢いで吐き捨てた、本当に最低な言葉と態度で。
言った言葉の酷さに自分でも驚いて咄嗟にあやまりはしたがが、言った言葉を取り戻すことなんてできるはずもなく、君との関係はぐずぐずになったまま卒業してしまった。

今の私があるのは君のお陰であることは考えなくともわかることなのに。私がそれに気づいたのはお礼のひとつも言ってないことに気づいたのは、もう君にそれを伝える事ができなくなってからだ。

「本当に私は、すべてを失ってしまったようだよ」

ありがとう

失ってから気づいたって遅いのだと、そう言ったのは誰だったか。




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5.セブルス・スネイプと彼女


魔法界の未来を掛けた戦いが、親友の忘れ形見によって幕を閉じた。その朗報が世界を駆け巡る中で、舞台の中心となった城、特にここ大広間には、喜びと悲しみの色がぐるぐると混ざり合っていた。魔法によって壊れた壁や柱などと共に、この戦いの英雄たちが横たわる。傷ついたり、衣服が破れたりしている者もいれば、ただ眠っていうようにしか見えない者もいるが、そのほとんどがもう二度とその瞼を開ける事はない。
その英雄たちの中に、彼もいた。いつも通りに着込んだ黒は所々裂け、泥で汚れている。不健康そうな顔は、血の気が引けて青白く、更にコウモリに近づいたようだ。眠るように閉じられた瞼がとても不釣り合いに見える。

誰もが同じ幸せを得られる道なんてない事位とっくに分かっていた筈なのに、どうしてこうなってしまったのかと、二度と目覚めない彼を見下ろしながら考える。全てが終われば、貴方は貴方のために生きる人生が始まるんじゃなかったのか。どうして貴方は、いつも茨を選ぶの。
あの時貴方があの言葉を言わなければ、ポッターがリリーを好きにならなければ、リリーが貴方と結ばれていたなら、貴方もリリーもポッターもブラックもルーピンも死ぬ事はなかったんじゃないか、なんて思ってしまうのは、私の心の整理がつかないからだろう。貴方が貴方の幸せをつかんでいたなら、私はこの、貴方への想いを清く思い出にできたのに。
けれど、貴方はあのおぞましい言葉を吐き捨てたし、リリーは結局ポッターを好きになって、貴方は例の予言の場面を闇の帝王に告げて、二人は生まれたばかりの我が子を残してこの世を去ってしまった。貴方の時はあの時に止まってしまったのだろうか。結局貴方は後悔の念でリリーの忘れ形見を文字通り命を掛けて見守り続けた。私は貴方への気持ちを諦められず、けれど10年以上も前から変わらない守護霊を見せられて、結局この気持ちを伝える事はなかった。できなかった。
あの時ああすれば、もしもこうだったら。過去に遡れば遡るほど、その時の選択全てが間違えているように感じる。

「何が、間違っていたんでしょうね」

好き

「エクスペクト・パトローナム」

私の杖から出て来たのは銀色に光る数匹の蝙蝠だった。




  ――あの時、伝えていたら、
違う未来があったのだと、

title by 確かに恋だった


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