きっかけは君たち

試合終了を知らせるブザーの音が鳴り響く。
優勝候補相手に逆転勝利、大金星をあげた対戦相手のベンチ選手は皆、コートの中にいる選手たちの元へ駆け込み歓喜の渦に沸いている。

「海常が負けた…?嘘だろ?」

その一方、海常のOBや保護者がいる学校応援団の席は静まり返っている。
その温度は怖くなるほど本当に冷たくて喜びに沸く相手チームとは真逆だった。


「か、さ…まつ…」





_________



目覚ましのアラーム音で目を覚ます。
今のは夢か。
しかも去年のインターハイ初戦の時の…
去年のインターハイの夢を見るとか随分懐かしい夢を見たものだ。
頭を切り替えるために溜め息を一度つき、ベッドから抜けて朝の支度を始める。

そうだ、今日は練習試合があるんだった。
相手校は東京の誠凛高校。
まだ創部して二年目だというのに去年は決勝リーグまで残ったとか。
ってことは今日は二年と一年しかいないのかな?
東京にだって強豪校はたくさんあるのにわざわざ神奈川のうちに試合を申し込みに来たんだ。
どんな相手なのか、実は楽しみな私がいる。

「おはようございます!」

朝八時、ジャージに着替え体育館に入ればもう殆どの部員は来ていてストレッチや練習を始めていた。
午後からだもんね、今日の試合。

そんな中で私が驚いた光景があった。

黄瀬がいたのだ。
まだ部活始まる時間じゃないのにもうアップを始めている。
その様子はとても楽しそうで、黄瀬もこんな表情をするのかと少し驚いたのは内緒な話である。

「あ、来てたのか。」

「笠松、おはよ。」

笠松が今日の予定が書かれたノートを持って私の元へやってきた。

「それ今日の予定?」

「ああ、名字も確認しとけって監督が。」

ノートを受け取って今日の日付のところを見る。
だけど気になるところが何点かあった。

「え…コート半面?全面じゃないの??」

「試合はレギュラーのスタメン出すけど、それ以外の部員は通常練習だとよ。」

「なんだそりゃ。」

源太の野郎…下級生や控えに見学させずに練習させるとか見る価値もない、と言ってるようなもので完璧に相手舐めきってると言っていい。
これは相手もカチンと来るだろうな…

「レフリーが控えの三年ってことは私、今日はただベンチでスコアやってればいいのかな?」

「みたいだな。レフリーの欄に名字の名前書いてねぇし…T.Oも二年やるみてぇだし。」

「オッケー」


今日のやることを確認してから私もマネージャー業務を始める。
今日も部員のシャトルランのタイム測定とかシュート率の計算とかやらなければいけないし。

午前中は体力作りと基礎練。
普段よりやや軽めの練習メニューは何事も問題なく終わり昼休憩になった。

「名字、昼はどうすんだ?」

昼休憩に源太の指示通りコートを半面にするため体育館の中央にネットを張りT.Oが座る椅子やらテーブル、誠凛と海常のベンチのセッティングをしているとタオルで汗を拭いながら笠松がやってきた。

「え?なんかもうすぐ誠凛さん来るみたいだからお迎え行こうかな、って。
うちの学校バカみたいに広いし体育館も何個もあって分かりづらいと思うから。」

「そっか。」

私たちがそんな会話をしていると横から黄瀬が突然やってきた。

「名字先輩、誠凛のお迎え行くんすか?」

「うん、そうだけど…」

黄瀬とは事務連絡以外であまり話さないので(というより黄瀬が警戒心強いので雑談をするほど人間関係を築けていない)私の話に食いついてくるのが意外であった。

「俺、名字先輩の代わりに誠凛のお迎え行きたいんすけど…ダメっすか?」

「は?なに言ってんだお前。」

黄瀬の突然の申し出に笠松は眉をしかめる。

「随分と誠凛のことを気にしてるみたいだけど…知り合いでもいるの?」

この間も部活突然休んで誠凛に行ってたくらいだし。
ずっと疑問に思っていたことを尋ねてみると見たこともないような笑顔を見せてくれた。

「中学時代のチームメイトいるんすよ!黒子っち!!黒子っちは本当に凄いんすよ…」

中学時代のチームメイト…帝光の人か。
黄瀬がそこまで言うのだからきっと控えなんかではなく試合に出ていたのだろうが…黒子という名前は聞いたことがない。
今日の試合、誠凛のスタメンに出てくるだろうか…

「あのなあ…お前はいい加減に」

笠松が自分勝手なことを言う黄瀬を諫めようとしたが私は笠松の言葉を遮った。

「いいよ、黄瀬が行って。」

「名字!?」

「先輩、いいんすか!?」

「私が行くより相手も顔分かってればすぐに見つけられるし…面識ある方がリラックス出来るだろうしね。」

「わあーありがとうございます!では笠松先輩、行ってくるっす!!」

そう言って笑顔で体育館を飛び出した黄瀬に犬耳と尻尾が見えたのは内緒な話。
黄瀬の後ろ姿を見送るなり笠松はやれやれ、と溜め息をついた。

「いいのかよ、お前。」

「いいよ別に。誰が行ったって変わらないし。
それに…あんな楽しそうな黄瀬は初めて見た。」


この時の私は順当に行けば練習試合は海常が勝つであろうと思っていた。
でも、幻の六人目…見たことのない跳躍力、そしてまだまだ荒削りだけど二年目のチームとは思えない実力。

度肝を抜かれるのはこの数時間後の話である。


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