カメレオンのなみだ
「上手い下手の前にまず、ここは海常高校バスケットボール部だ。
早く生まれたからじゃねぇ。
ここにいる二・三年はみんなお前より長くこのチームで努力し貢献してきた。
そのことに対する敬意を持てっつってんだ。“キセキの世代”だろーがなんだろーがカンケーねんだよ。
お前はもう海常一年黄瀬涼太。
そんで俺は海常の三年主将、笠松幸男だ。
なんか文句あんのか」
その言葉に納得したワケじゃなかった。
でも“海常の黄瀬”という言葉は何故かすんなりと入ってきて不思議な気持ちになったのは記憶に新しい。
海常に入って少しの月日が経った。
練習は…まあ中学の時と変わらず、って感じっすかね。
まあ俺が一番上手いっすけど。
…あの人たちがいないから当然か。
でもここに入って一番意外だったのはバスケ部のマネージャーが女の先輩だったこと。
名字名前先輩…だっけ?
正直、どうも好きになれない。
顔は美人だと思うけど、ああいう男所帯にいる女ってのはちやほやされたくて、自分が一番かわいい、とか思っていて…とにかくいい印象がない。
中学までの女子マネージャーは敏腕で誰よりも仕事が出来たし、実際彼女のスカウティングには何度も助けられてきた。
マネージャーとしての比較対象が桃っちなのは…ちょっと可哀想な気もするけど。
この間、部活をいきなり休んで誠凛へ行った。
名字先輩が注文したユニホームを届けに来てくれた時に誠凛との練習試合の話を教えてくれていてもたってもいられなくて。
全中の後、姿を消した黒子っちが高校でもバスケをやってる。
黒子っちの力は俺たちとは全く違う力で尊敬している。尊敬しているからこそあんなところにいるのはもったいないって思うし、一緒にやりたいって気持ちも当然ある。
…でも黒子っちは強い学校じゃなくて新設校にいる。しかもキセキの世代(俺たち)を倒すとか。正気とは思えないし、なにを考えているのかも意味が分からない。
黒子っちは変わってしまったんだ。
あの冗談が苦手で頑固なあの人が自分を曲げるだなんて絶対に有り得ない。
「お疲れ様でーす。」
体育館に入ると名字先輩と森山先輩と笠松先輩がなにやら楽しそうな様子で話している光景が目に入った。
なにを話してるのかなんて興味もない。
別に仲良くしようとも思わない。
要は勝てばいいんすから。
楽しそうにしている先輩たちをアホらしい、と横目で眺めて更衣室へと歩みを進めると、まだ更衣室の中に数人いるらしく会話が聞こえる。
「ってかさ黄瀬、アイツまじ舐め過ぎだろ。」
「あーそれな。やっぱ“キセキの世代”は違うって?天才さまは部活来ないでも俺たち凡人に勝てるから練習なんていらねーんじゃねぇの?」
「まあモデル様は俺たち凡人なんか目にもくれてねぇって。どうせバスケなんて暇つぶしだし俺たちなんか雑魚だとしか思ってねぇーよ。」
中にいるのは二年の先輩っすか。
どうとでも言えばいい、こんなこと言われてるのは慣れてる。
歯を食いしばることもなく、むしろ満面の笑みで堂々と中に入ってやる。
「先輩お疲れ様っす!」
俺の挨拶に面白いほど肩をびくつかせる先輩たち。
「あ、おう…お疲れ。」
それはそうだ。さっきまでの陰口の対象がタイムリーに姿を現したのだから。
“お前は海常一年、黄瀬涼太”
…誰もそんなこと思っていないことくらい分かる。
あの時はすんなり入ってきたのに今はそれを拒まれている気がする。
みんな俺を“キセキの世代、黄瀬涼太”として見ているのだから。
だから改めて聞きたい。
どうやったら海常一年、黄瀬涼太(それ)になれるすか。
ねぇ、先輩。
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