巨人後輩はお菓子好き


「名前ちゃんお昼にしよー」


「うん。」


だるいだるい授業も終わり、これからランチタイム…つまりは昼休みである。
四限が終わったら前の席の綾ちゃんが私の方を向きお弁当が入った手提げ袋を出していた。
私もお弁当の入った鞄を持ち、共に席を立ち上がると今日もイケメンな隣人氷室辰也は私たちを見てクスリと笑っていた。


「…なにさ。」

「いや、今日も仲良いねって。」

「うん、名前ちゃんとラブラブ仲良しだよ!」


私の腕を組み、ラブラブ宣言をする綾ちゃん。


「氷室くんは学食?」

綾ちゃんが尋ねると氷室くんはああ、と頷いた。

ああこの二人、マジで見てくれだけはアメリカ帰りのバスケ部スタメンなイケメンと秋田美人の名を欲しいままにするクラスのマドンナ、美男美女でなんとも目の保養になるのだが…イケメンは口を開けば毒しか吐かない超絶失礼なイケメンでクラスのマドンナはボーイズラブが大好きな腐女子だぜ…?

本当に世の中腐ってるわーと思ったその時だった。


「むろちーん…」


このクラスでは聞き慣れない声が聞こえた。

私は誰だ?と思って声が聞こえた方を見るなり絶句した。
そこにはクラスのドアよりも遥かにデカい巨人がこのクラスを覗き込んでいたからだ。

えっ…?なにこいつ…デカッ!

「あ…アツシ?」

綾ちゃんと談笑中の氷室くんはその巨人に向かってアツシと呼んでいた。
…ってお前の知り合いかいっ!!

「どうしたんだいアツシ…二年の教室まで来て。」

「お菓子持ってない?」

「うーん…今日は持ってないかなあ…」

「えー、購買も人混みで近づけないし、お菓子なくなりそうだよー…」

見るからに他学年ってか後輩だよね?
先輩の教室来てお菓子を求める子なんて初めて見たぞ。

でもあの巨人後輩も氷室くんも少し困っているみたいだし…
お菓子なら確か私も持っているし。


「あの、これでよければあげるよ。」


鞄の中にベビースターラーメンチキン味があった私はそれを取り出し、巨人後輩にあげた。

「えー?いいの?」

巨人後輩、私とベビースターラーメンを交互に見つめる。

「あ、足りなかった?」

「うん…でも、ありがとう。」

「なになに、足りないなら私からもあげよう。」


私と巨人後輩の間に綾ちゃんが入ると、彼女は茶筒を巨人後輩に渡した。


「…なにこれ?」


いきなり茶筒を渡されて眉を潜める巨人後輩。


「揚げ餅だよ、うちで作ったやつ。お餅だからお腹にも溜まると思う。」


巨人後輩が茶筒をカポッと開ければそこには塩がまぶされた揚げ餅がたくさん詰まっていた。
一口食べてみると、ボリボリといい音が響き巨人後輩の顔がみるみる明るくなっていく。

「…うまい。」

「なら良かった、全部食べていいからね。」


綾ちゃんはニッコリと笑う。


「名字さんも鈴木さんもありがとう、助かったよ。」

氷室くんが困ったように笑うと揚げ餅を食べている巨人後輩が
「名前なんていうの?」
って聞いてきた。


「私は名字名前。」

「鈴木綾です。」

「…名前ちんと綾ちん。」


ふあ!?


「二人ともチョーいい人、ありがとう。」


そして礼を言うなり巨人後輩はスタスタと私たち三人の目の前からいなくなった。


「名前ちんと綾ちんってなんぞ?」


「名字さんと鈴木さんにアツシが懐いただけだよ。」


「えっ!?懐くの早くない!?普通に私たちお菓子あげただけだよね!!?」


「アツシ、お菓子が無くなると機嫌悪くなって部活にも支障出るからなあ…だから助かったよ。」


うん、氷室くんがそう言うのならそうかもしれないさ。
だけどさあ…お菓子あげてホイホイ懐くとか今時小学生でもないわ!!


でも部活にも支障が出る、ってことはあの巨人後輩…


「もしかしてバスケ部の後輩?」

「そう、紫原敦っていうんだ。なかなか面白いヤツだよ。」


うん、まあ確かに堂々と先輩の教室に来てお菓子を要求する後輩って面白いと思うさ。


「なんか変わった子だったね綾ちゃん。」

同意を求めようと横にいる綾ちゃんの方を向いてみると、綾ちゃんは目を見開き口元に手をあて、わなわなと震えていた。


「あ、綾ちゃん…?」


「ひ、氷室くん…あの紫原くんって子…バスケ部のレギュラー…?」

やばい。
綾ちゃんの真の人格が出掛かっている。


「えっ?あ…そうだよ。」


「いつも二人は一緒にいるんですか!?」


鬼気迫る勢いで氷室くんに問い詰める鼻息が荒い綾ちゃん。
あの氷室くんも引いている。
綾ちゃんのあの勢いにどん引きである。


「まあ…チームメイトの中では一番よく一緒にいるかな…?」

氷室くん、それ地雷や。


綾ちゃんは考えが落ち着いたのか、親指を立てて物凄くいい笑顔を氷室くんに向けた。


「なにがあっても…私、二人のためならなんでもするから!!」



うわー言っちまった。
綾ちゃんやってしまった。


「えっ…二人??」

氷室くん目が点。


「強豪バスケ部の寮暮らし、イケメンな先輩と休み時間にもわざわざ先輩の所に来てお菓子をねだる後輩っ…!嗚呼おいしい、おいしい設定すぎますわっ!!」


これはひどい、病院が来い。


綾ちゃんの口からはまだまだ続く先輩と後輩の禁断の物語が垂れ流しにされていると氷室くんは私を呼んだ、そして一言。


「…キミの友達、頭大丈夫?」

ハハハ、そんなの決まっている。


「大丈夫じゃない、問題だ。」


隣人に友人の真の人格を知られた昼休みであった。





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