可愛い子はだいたい頭がヤバい
「みーたーぞー」
「なにを?」
「今日も氷室くんと仲良くお話している名前ちゃんを!」
放課後、元から部活というものに入っていない私は今日は手芸部の活動がない綾ちゃんとマジマジバーガーに寄り道。 アップルパイと紅茶を頼んだ女子力高めの綾ちゃん。 一方の私は普通にチーズバーガーセット。 いや、今日はマジでお腹空いているんだって。
「というより名前ちゃんって最近氷室くんと仲良いよね。」
「仲がいいというかなんというか小馬鹿にされて弄られてると言った方が…」
今日なんて数学の時間、頬杖ついてうとうとしていたら、そのまま眠りそうになった時に顔を支えている手の力が抜けて机に顔面強打して鼻を抑えているところを氷室くんに見られて鼻で笑われた。 それで授業が終わったら一言。
「授業中はさすがにカエルがひき殺されたような声を出さないんだね、残念。」
ハハハ、と爽やかに笑われた。
「確かに名前ちゃん、叫び声酷いよね。 そこは氷室くんに同意するな。」
アップルパイを頬張りながら言葉の刃を突き刺す綾ちゃん。 その一言でHPの半分を持ってかれたようなダメージだ。 天使のような顔で時たま酷い事をさらっと言うこの友人。
「でも…名前ちゃんといるときの氷室くん、なんか楽しそうだよね。」
「え?」
温かい紅茶を両手で持ちながら目を細め柔らかく笑う綾ちゃん。
「私も氷室くんが女の子から手紙渡されたり、アタックされてるの見るけど…心から笑ってない感じがする。 名前ちゃんをいじり倒している時の方が等身大で素直に笑っていると思うんだよね。」
「うん、なんかそれ言葉だけ聞いていると私が酷い扱いされている気がするんだけど…」
「えーだって名前ちゃん面白いんだもーん」
「おい、それ私がまるで弄られキャラみたいじゃないか。」
「え、違うの?」
絶望した、友人の言葉に絶望した。 「出落ちキャラよりいいじゃんー」って言うがそれは全然フォローになっていない。
「だから…結構名前ちゃんと氷室くん見てるの楽しいんだよ、ネタ的な意味で!!」
凄くいい笑顔を私に向けてくれるのはいいが…綾ちゃんはどこから出したんだよ、と突っ込みたくなるようなノート数冊を私の前に出して親指を立てキラキラしていた。
「あ…うん、ノートの中身はいいかな…」
「えー!面白いのにー!!」
「絶対にそのノートの中身、私が男になってイケメン転校生との禁断の関係が書かれているんでしょ!」
「なぜ分かった!!??」
そう…この娘、男同士がイチャイチャしているボーイズラブというのが大好きなのである。 夏休みと冬休みには東京に住んでいるお姉さんの家に泊まってコミケに行ったり、裁縫の才能をフルに使ってコスプレの衣装も作ったりしている。
めちゃくちゃ目の下にクマを作ってきた時は原稿仕上げるためにトーン貼っていた、とか次のイベントの為の衣装作っていた、とか言っていた。
めちゃめちゃ可愛いクラスのマドンナが実は腐女子… 何人が彼女の真の姿を知っているだろうか。
「大体、なんで私が男になってんの!」
「そっちの方が楽しいから。」
「ど・こ・が!?」
「名前ちゃん分かっていない。」
腕を組み右手を顎下に添えめちゃくちゃカッコ付け、ドヤ顔をしながら私に語りだした。
「この男と男という禁じられた関係にロマンスを感じているの…! だけど走り出した思いは止められない!それどころか湧き水の如く溢れてくるっ!! これぞ正しく世の乙女たちが求めている障害のある恋だと思わないかね明智くんっ!!」
いや…誰だよ明智って… 私、名字なんだけど…
「でもイケメンに限るんでしょ?」
「うん、二次元では妄想自由だから!!」
…私、この子がきちんと現実世界で恋を出来るのか物凄い心配になってきた。 いや、綾ちゃん見た目は可愛いし男子の人気はピカイチなんだけど中身がなあ…
チーズバーガーを咀嚼しながら目の前の友人の熱弁を右から左に流すだけの簡単な作業をしている放課後、華の女子高生。
本当にこの子、色んな意味で大丈夫かしら…?
.
[ ]
|