隣だけどね


その後はもう散々だった。
鼻血止めるために鼻の中に棉入れられるわ、なかなか血が止まらないから鼻に棉を詰めたまま教室に行くことになるわ、私の無惨な姿を見たら綾ちゃんにもやっぱり顔を背け声を殺して笑われた。

そしてなにより変わったこと。

「名字さん、おはよう。」

鼻血事件があってから隣人氷室辰也がめちゃくちゃ話しかけてくるようになった。

「…おはよう。」


今まで会話という会話をしたことなかったからはっきり言えば怖すぎる。
それは鼻血出して笑われたり、文字通り人を殺せそうな勢いの笑顔を見せられたら怯えるに決まっている。


「もう鼻は大丈夫そうだね。」

傷を抉るのも忘れないイケメン。
おいおい、このイケメンに群がっている女子たち。
こいつドSだぞ!?群がっている女子たちは氷室くんに罵られたいドM集団なのか!!?


「お陰様で大丈夫です…」


「そう、なら良かった。」



ニコッと微笑みかけてくれるが、この笑顔の裏にはなにがあるのかと考えると私には恐怖しかない。
イケメン怖ぇ…怖いでござる。


「名字ちゃーん!先輩が呼んでるよ!!」


そんな時、教室の入り口からクラスメートの声がした。
救世主!よく私をイケメンの隣から解放してくれた!!

それにしても私を呼ぶ先輩とか誰だろう。


私が教室の入り口から廊下を覗くと見知った巨体が。


「あ、岡村先輩。」


「名字、呼び出してすまんな。委員会のプリントを二年の奴らに配ってくれないか?」


厳つい巨体の先輩、岡村先輩。
体育委員会の先輩である。
ついでに男子バスケ部の主将。
よく背の低い先輩(と言っても私たち一般人から見れば充分高い)からゴリラだアゴだ弄られてる姿を見るが、委員会では凄く頼りになるいい先輩だ。

「あ、分かりました。配っておきますね。」


先輩からプリントを受け取る。
あ、そうか…もう月一にある定例会か。
多分体育祭の反省会やるのかな?


「あと、氷室を呼んでくれないか?」

「え?氷室くん??」


岡村先輩から思いがけない人物の名前が出てきてビックリした。

「氷室くん、体育委員会じゃないですよ。」

「いや、氷室は部活の用事じゃ。」

「え…?氷室くんバスケ部なんですか?」


新事実、イケメンはバスケ部。

「呼びましたか?主将。」


「ぷぎゃあああっ!!」


このイケメン呼んでもいないのにヌルッと出てきたぞ!?


「お前だけに伝えられなくてのぉ…監督からレギュラーは練習前にミーティングがあるから部室集合じゃ。」


「はい、わかりました。」


「それじゃあ、伝えたからな。大槻もプリントよろしく頼むぞ。」

「…はい。」


じゃあな、と去ってゆく岡村先輩。


「ククッ…」


そしてまた腹を抱えて笑うイケメン。


「なんですか…?」

ちょっと睨んでやる。

「名字さん…叫び声面白すぎて。」

「悪かったですね、色気なくて。」

「あ、自覚はあったんだ。」


なにこのイケメン、超失礼。


「…ってか氷室くん、バスケ部だったんだね。」

私は氷室くんがバスケ部であることが一番驚いた。
しかもレギュラーである。

うちのバスケ部がめちゃくちゃ強いというのは部外者である私も知っている。
よく全校集会で表彰されてるのを見るし、夏前は祝インターハイ出場の垂れ幕が掛かっているのも見た。


転校してきたばかりの彼がレギュラーということは相当強いんじゃないのか…?


「あ、うん。ってか…俺がバスケ部なことてっきり知ってるかと思った。」

「知ってるわけないでしょ。氷室くんときちんと話したことないんだから。」


私の言葉に豆鉄砲を喰らったような顔をする。


「確かに…隣の席なのにね。」

そんな彼を見てみると私は彼の胸元に光るアクセサリーを見つけた。

あれ…?アクセサリーなんかしていたっけ?
でも見た感じ新品のアクセサリーでない。
結構年数は経ってると思う…


しかもシルバーリングをチェーンにかけたネックレス。
これは彼女でもいるのか?


「というより俺は大槻さんが体育委員会なことにビックリしたよ。」

「まあ言ってないし、体育祭も終わっているから目立った仕事もないしね。」


「なんで体育委員会に入ったんだい?」

いきなりの質問に私は少し驚く。
私を知ろうと質問したのか…?


「ジャンケンで負けて体育委員会になったの。」

「…なんか、名字さんらしい理由だね。」

「私らしいってなんだ。」


でも深くは聞かない。
こいつは絶対に毒を吐く。


…あれ?
でも私、なぜ氷室くんが毒を吐くって思ったんだ?
彼は誰にでも優しく紳士的で、いつも笑顔で…

でも実際は私が鼻血出したら心配しているように見せかけてめちゃくちゃ笑うし、超失礼なことも普通に言うし…本当はもっと等身大な普通の男の子なのではないか?


「名字さん?」



私が考えていると、首を傾げる氷室くん。



「ううん、なんでもない。」




私は彼がどんな人間なのか知らない。
彼も私がどんな人間なのか知らないだろう。

でも今日、私は少しだけ彼のことを知れたと思う。

イケメンでバスケ部で誰にでも紳士的かと思ったら普通に毒を吐くし、超失礼なこともさらりと言いのける隣人。


色々楽しみである反面、これから彼のどんな一面が暴かれるのだろうかと不安になった今日この頃である。





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