知らない、なんて嫌だから


「…で、どうしてこうなった。」

世間はもう冬休み。
名字名前、綾ちゃんと一緒に池袋なう。

「私、冬は本気出してるから。」

「いや、ワケが分からないよ。」

一緒に行きたいところがあるから東京へ行こう、そう綾ちゃんに言われ冬休み真っ只中の昨日から私は東京にいる。
ちなみに宿は一人暮らしをしている綾ちゃんのお姉さんのお家だ。

池袋なんて初めて来たのだが私には異世界のように感じる。
もの凄くピラピラした洋服を着た女の子がいたり、キャラクターのキーホルダーや缶バッジで大変なことになっているバックを持つ人もいた。
あのバックは迫力が凄まじすぎて思わず振り返って二度見をしてしまったではないか。
しかも揃いも揃ってキャリーケースをガラガラと引いていたりするのだ、あれは何故だろう。

「ってか綾ちゃんフォロワーさん?どんだけいるのよ。」

「え?たくさんいるよ。」

そして最も恐ろしいと感じたのは池袋に本店があるアニメ専門店に行った時だったか。
生まれも育ちも秋田県な綾ちゃんが東京の女の子に囲まれて
「いつもpixiv拝見してますー」とか言われちゃっているのだ。
貴様、なぜ東京に知り合いがいるのだよ…
いや、突っ込んだら負けか。

そして今は星座のパフェを売りにしているカフェに二人で来て可愛らしいパフェを食べている。
店内も星をモチーフにしていて本当に可愛い、そしてパフェうめぇ。

「綾ちゃん、もしかしてオタク活動のために私を池袋に呼んだの?」

「え?そうだよ。」

「おい。」

天使のような顔でさらりと畜生発言をかます。
いやいや、いいけどね。
一番くじ一人二回までとか私がいれば綾ちゃんは計四回できることになるからね。

私が盛大に溜め息をつくと綾ちゃんはガサゴソと鞄を漁り私に封筒を差し出してきた。

「なにこれ。」

「開けてみて。」

綾ちゃんから封筒を受け取り、中身を出す。
すると私は思わず声を漏らしてしまった。

「綾ちゃん、これ…!?」

綾ちゃんが私に渡した封筒の中身にチケットが二枚入っていた。
そのチケットは“全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会入場券”と書いてあったのだ。
つまりこれはウィンターカップのチケット。

「二回戦から見に行くよ。」

「えっ?」

「とりあえず今日の夕方に陽泉が出るからね、これ食べ終わったら東京体育館に行くから。」

「ちょ、ちょっと綾ちゃん…」

ウィンターカップをこれから見に行く、そういうことは嫌でも氷室くんを見ることになってしまう。
リングを捨てられず今でもこうして持っている私は今、氷室くんを見るだなんてそんなこと…

「名前ちゃん、本当にこのままでいいの?」

黒い水晶のような瞳が私を射抜く。

「だって…氷室くんは私にリングを捨てるまで姿を表すなって…」

「…氷室くんが本当にそれを望んでいると思う?」

「あや、ちゃん…?」

彼女は紅茶を一口飲んでから小さく息を漏らす。

「私は二人になにがあったのか予測でしか分からない。
氷室くんが露骨に名前ちゃんを避け始めてから一度、氷室くんと話したけど…彼はなにかに捕らわれて苦しんでいる。
氷室くんと少し話していて私には“助けて”って聞こえたんだ。
それに…名前ちゃんなら絶対大丈夫だよ。
私が保証する。」


柔らかく笑う彼女に私は救われた気がした。
コートのポケットの中にある彼のシルバーリングを出す。


「氷室くんは選手だから会えるかも分からない。」

「うん。」

「このリングがお揃いの弟さんとなにかあって…氷室くんは苦しんでいると私は思うの。」

「…うん。」

「私にもねこのリングを渡された時、助けてくれって聞こえた。
あんなに大切そうに色んな思い出話をしてくれたから。
…私の主観かもしれないけど。」

私は本当にいい友達をもった。
私が立ち止まった時に後ろから背中を押してくれるから。

「私には見届けることしか出来ないけど、なにも知らないだなんて嫌だ。
もし氷室くんがタイガくんというリングがお揃いの弟さんと戦うことになるのなら…私、彼になにを言われようがリングを返してあげたい。」

これは私が持っていちゃいけないものだ。
だって氷室くんの本当に大切なものだと思うから。



「綾ちゃん、ありがとう。」


綾ちゃんにお礼を言った私はリングを握りしめ、もう一度ポケットに戻す。

このリングを氷室くんに返したい。

だって私には


“捨てないでくれ”


そう聞こえたのだから。




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