好き、それとも?


「みんなコップ持ったかー?」

「えー、それじゃあ文化祭お疲れ様でした!かんぱーい!!」

「「かんぱーい!!」」

委員長保田くんの乾杯の音頭でクラスみんなでジュースを乾杯する。


そんな私は今、どこにいるのか。
お答えしよう、焼き肉屋だ。


二日間に渡って行われた文化祭は無事に幕を閉じ、クラスでやった綿飴屋さんも好評だった。

そしてなにより…

「やっぱり女装コンテストに氷室出して正解だったわ〜
単独トップで優勝しちまうなんて…」

「そうそう、でも氷室くん綺麗だったよねぇ…」


そう、後夜祭で行われた女装コンテスト。
氷室くんは綾ちゃんお手製の黒のフリルが特徴的なゴシックロリータの服を着こなし、審査員審査、観客審査共に単独トップで優勝したのである。
…まあ顔が女より美しいからな、氷室くんが登壇した時あまりの美しさに女子生徒の悲鳴が体育館中に響き渡っていたもんな。

今焼き肉屋にいる理由も氷室くんが優勝してクラスに賞金10万円が入ったからクラス全員で文化祭の打ち上げに焼き肉屋に来ている。

これにはまあ…氷室くんが「せっかくなんだからみんなでご飯食べよう」だなんて言ったから急遽焼き肉屋(もちろん食べ放題)になったのだが…私はなにか裏がありそうで氷室くんの提案を素直に喜べなかったあたりひねくれた性格なんだろうな、と思っている。

それにしても、だ。

「なんで私、みんなの肉を焼いてるの?」

席につくなり男子にトングを握らされた。
そして山盛りの肉を渡され鉄板の真ん前に座らされ、肉を片っ端から焼いているのである。

「だって名前ちゃん、肉焼くの上手いじゃん。」

「固すぎず生すぎず…絶妙な焼き加減だ。」

「鉄板にも無駄なく肉が広げられ、尚且つ窮屈すぎず効率的に焼いている。」

「完璧だ。」


口々にそんな調子のいいことを言い、私が肉を焼くテーブルにいる男女合わせ五人は焼いた肉をダイソンのように吸い込んでいる。


「あれ?私、焼くの専門?私の肉は?」


「焼けたら食べればいいじゃん。」

「焼いたら皆が食べていくじゃないですか…」

これってもしかして私、完全に焼き肉奉行のパターンですか?
焼き肉なんて滅多に食べないから私だって食べたいのに…解せぬ。

「私なんかより綾ちゃんに焼いて貰った方がいいじゃん。綾ちゃん焼くの美味いし。」

トングで肉をひっくり返したり、網に乗せたりしながら綾ちゃんの方に行かねぇかなあと思いそんなことを口にしてみたが、私が焼いた肉をリスのように頬張る田中さん(女)はこう言った。

「鈴木ちゃんのテーブルはもう男子でいっぱいだよー」


ほら、と田中さんが指をさした方に顔を向けると綾ちゃんのテーブルには男の子が六、七人もいてクラスのマドンナが焼いた肉を何ともいえない表情で噛み締めていた。

あ、うん。
綾ちゃん…見た目はめちゃめちゃ可愛いもんね。
腐りきった中身さえ見なければ男子永遠の憧れの的、鈴木綾ちゃんだもんね。

私は親友が男に囲まれているあまりに、自分を囲んでいる男同士でカップリングしださないかだけが不安で仕方ない。


「裁縫の鈴木、料理の名字…我がクラスの家庭科コンビは焼き肉屋で焼き肉奉行。」

「いや、田中さん意味わかんないよ。家庭科コンビってなにそれ…」


ってか家庭科コンビって名前がクソだせぇ気がするのは私だけかい…?


「いやー名字の周りってモテるヤツばっかりだよな。」


私の焼いたカルビを頬張る山崎 くんは私が焼いた肉を次々と取りながらそんなことを呟いた。

「いつも一緒にいる鈴木は陽泉で一番の美女とも言われているし、隣の席の氷室は数々のイケメン伝説を築き上げているし…」

「あ、そうだよね!名前ちゃん氷室くんとも仲良いよね〜
いつもなにか楽しそうに話しているし!」

「名前ちゃん、氷室くん気になったりとかしないの?」


氷室くんが…気になる?

それはきっと恋愛でだろうか。

確かにヤツはイケメンだ。
だけど私が鼻血吹けば笑うし、なにかといじり倒してくるしで結構失礼なヤツだ。
でもバスケにストイックに打ち込む姿…一回だけしか見たことないけど、ひたむきに努力している姿は本当にかっこいいと思う。
でもそれが恋愛での好きか、と聞かれればNOと答えるが、私が恋愛初心者すぎて男の人を恋愛対象として見たことがないから分からない、というのが正解かもしれない。
だって恋愛の好きと友愛の好きの違いだなんて分かるわけないじゃないか。


…でも、氷室くんのことで気になるといえばあの仄暗い瞳。
雨宿りのために寮にお邪魔し、彼の服を借りたあの日…私が彼の部屋に飾ってあった写真の話をした時だ。
あんな顔をした氷室くんを初めて見た。

私が知る限り、氷室くんは器用な人間だ。
自分の本心を上手く隠せてしまうような人だ。
そんな彼が見せた一瞬の表情。

それが恐怖にも感じられる表情だった。


なんであんな瞳をするのだろう、もしアレックスさんやタイガくんとなにか確執があるのなら自室に写真なんて飾るわけもない。

…だとしたら、私が彼の地雷を踏み抜いた?


「…名字?」

山崎くんの声でハッと我に返った。

「あ、ごめん…ボーッとしていた。」

「それでどうなのよ!」

「氷室くん気になるの?」

田中さんや他の女子たちの言葉を聞きながら、そっと氷室くんがいるテーブルを見る。
男女半々…いや、他のテーブルの女の子も氷室くんのところに来ている。
彼の表情は私が知る“当たり障りのない”笑顔だ。


「氷室くんは…ちょっとないかな。」



私のそんな言葉は肉を焼く音、クラスメートたちの笑い声、店の雑音。
そんな中に溶けて消えていった。








_________









「ただいまー」

打ち上げから自宅に帰ってきた私は疲れのあまり自分の部屋のベッドにダイブした。
あの後、結局ずっと肉を焼かされ私が焼き肉にありつけたのはみんなお腹いっぱいになって箸が止まったラスト三十分くらいからだ。
…まあ、結構たくさん食べられたからいいけど。

それにしても制服がとても煙臭い。
これはすぐに制服を脱いでファブリーズをかけないと私の部屋まで煙臭くなってしまう。
ダルいけど制服脱いで私服に着替えるか、と制服に手をかけた時だった。
私の携帯からメールの受信音が聞こえた。
誰だろう…綾ちゃんかな?
そう思いメールボックスを開いた瞬間、私は絶句した。



【件名:氷室です。】


『名前、文化祭お疲れ様。
名前のアドレスと電話番号は保田から聞いた。
席は隣だけど名前のアドレスは知らなかったからね。
ところで明日13時から会えないかい?
明日は振替休校だろ?部活も午前中だけなんだ。
明日13時、駅前に集合。
待ってるよ(^_^)』



…このメールを見て私はどこから突っ込んでいいのか理解が出来なかった。

まず保田ァァアアア!!なに人の個人情報勝手に流出してんだよ!!
あれか?女装コンテストで優勝したら氷室くんの言うことなんでも聞くって言ってしまったからか?

それに『13時駅前に集合、待ってるよ(^_^)』って…なんで私が暇で氷室くんと会うこと前提で話が進んでいるのよ…
私の返事なんか聞いてないってか?
私の答えはYES or はい、か?
これは酷い…選択肢なんかなかったんや。


携帯を握りしめたまま大きな溜め息をついた私はメール作成ボタンを押した。


…どうせ暇だし、私に拒否権ないだろうから行くしかないか。

なんだかんだ氷室くんに振り回されても満更でもない私がここにいる。

あ、男の子と遊ぶ約束なんて初めてだ。


そんなことを思い彼へのメールの文章を考えながら夜は深まっていくのであった。








.

[   ]





return
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -