やっぱり顔よね


「くぁwせdrftgyふじこlpー!!!!!」


冒頭より友人鈴木綾がワケの分からない奇声をあげてしまい、全力でお詫び申し上げます。

説明すると、今までの流れ。

文化祭準備期間が始まる→綾ちゃんが氷室くんが着る女装コンテスト用の衣装を何着も持ってくる→氷室くんが衣装会わせということで女装している→女装した氷室くんが美しすぎて綾ちゃんが悶えている(イマココ)


衣装合わせだけなら私、全く関係ないよね。
綾ちゃんに「ねぇねぇ名前ちゃん、暇してる?暇だよね?ってか暇でしょ!さあ行くわよ!!」と暇だと決めつけられ空き教室で女より美しいイケメンとワケの分からない奇声を発している友人を椅子に座り死んだ魚のような目で眺めている。

全くもって解せぬ。


「それにしても、これはちょっと似合わなくないかな?動き辛いし…」


ちなみに今、氷室くんが着ているのは花魁の格好です。
綾ちゃん…いつの間にあんな衣装作ったんだ?
髪の毛もウィッグつけて、うなじも見えている。
女の子より全然色っぽい、そして美人だ。

そして氷室くんを見る度に敗北感をひしひしと感じている。

うん、顔ですね。やっぱり元の顔のデキが違うんですね。
自分で言っていて悲しくなるのは内緒な話である。


「…ってか氷室くん、あんなに嫌がっていたのに何気にノリノリだよね。」


とても汚い英語をボソッと漏らしてしまうくらい女装を嫌がっていたのに、いざ綾ちゃんが衣装を持ってくればノリノリで着替えている。
何気に女装コンテストやる気あるのか?


「優勝したら保田がなんでも言うことを聞いてくれるってことで…使える手札は出来れば多い方がいいだろ?」


満面の笑みで聞いた答えはなんとも聞かなかったことにしたいくらい物騒なものだった。
ってか保田くん…これ氷室くんの下僕ルート確定じゃないか?

「うーん、和服着慣れていないかあ…じゃあ氷室くん次はこれ!」

次に綾ちゃんが出してきたのは黒のレースがなんとも特徴的なゴスロリだった。

うん、美しいよ氷室くん。
だけどなんだろう、色んな意味で女のプライドずたぼろである。


「ぎゃあああああああ!!!素敵!!素敵すぎて穴という穴から液体出てくる!!!!」


どこぞの非公式のゆるきゃらを彷彿させるように激しく体を揺らしている彼女は最早手遅れだ。


そんな光景をずっと眺めているのであった。




























「まあそれにしても綾ちゃんの暴走は凄かったことで。」

「ハハハ、しょうがないよね。」

文化祭準備期間ということでバスケ部も部活停止な氷室くんと帰ろうということになった。
ちなみに綾ちゃんは手芸部の展示でやることがあるとのことで一緒に帰れない、と言われてしまった。


「あー…なんか空の色、怪しいや。」

下駄箱へ向かう廊下の窓から外を見てみれば、どす黒い雲が空を覆っていた。


「今日、降る予報だったっけ?」

「いや…特にそんな予報出ていなかったと思うけど…」

下駄箱に到着し、上履きからローファーに履き替え外に出ると冷たい風が吹き始めゴロゴロと雷の音が聞こえる。

あー早く帰らないと、こりゃ降るわ。

そう思って氷室くんと私は足早に校門を出た。
だがポタポタと雨粒がコンクリートに染みを作り、もう降ってきたかー、と思ったその時だった。

ザアアアーッ


バケツをひっくり返したというのでは生温いほどの雨が私たちを叩きつけた。
ちなみに目も開けられないくらい雨の勢いが強い。

「ウソでしょー!?」

「うわー名前、すごい顔だね。」

「なにこんな時に私の顔の話しをしてるのよ!!普通こんな唐突に雨が降る!?ってか傘もなんも持ってないし、こんなんじゃ傘も役にたたないわよ!!」


校門を出てしまっているし、今更学校に戻っても着替えもなにも持ってないから意味がない。

もうこうなったら濡れて帰るしかないか…

潔く諦めがつき、雨に叩きつけられながら帰ることを選択したその時だった。

「名前、寮にいくよ。」

「へ?」

「すぐ止む雨だと思うから。それにそのまま濡れておくわけにいかないだろ?」

「あ…でも私、家近いし…」

「あ?」

私が氷室くんからの申し出を遠慮しようとしたが、出ました。

何人も殺ってきた笑顔。

これは今まで見た中で一番怖い。
どう怖いかって思わず石化するくらい怖い。

これは逆らったら私、冗談抜きで明日の朝日を拝めないんじゃないか?
そんなの嫌だ、私はまだ生きたい。

「オ、オネガイシマス…」


私がそう言うと氷室くんはうんいい子、と言い私の右手をがっしりと掴んだ。

「へ?」

なぜ右手を掴まれたのか分からず氷室くんを見れば大変素晴らしい笑顔でこう言ったのであった。


「そうと決まれば“ちょっと”走るよ。」

ちょっと…走る!?

私は抗議しようとした。
だがしかし、氷室くんは私の手を引きながら走り始めた。
ちなみに少し考えて欲しい。
ヤツは強豪校のバスケ部スタメンという運動神経の持ち主で、私は帰宅部で運動なんかほとんどしないと。
この結果どうなるか…答えは簡単だ。


私、死ぬ。



「〜〜っ!!」

足がもつれそうになりながらも必死に氷室くんについていく。

「名前、意外と足が早いんだね。もう少しスピード上げても平気かな?」

平気なわけねぇだろバカ!!

だが雨の勢いもってか息もまともに吸えない私はただ氷室くんに引っ張られているだけだ。


「寮まであと少しだから頑張れ!!」


豪雨の中、氷室くんに引っ張られながら寮まで全力疾走する。
寮まであと少しらしいが…問題は私がそれまで生きているかという話である。



天国にいるお母さん…
名前はイケメンに殺されそうです。



ただそう思うのであった。




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