出来そうなことをひとつずつ
「今日からマネージャーを務めさせて頂くことになりました一年一組名字名前です、よろしくお願いします。」


入部届を出したその日から私は男子バスケ部のマネージャーを務めることになった。
美希ちゃんは凄く喜んでくれたし、同じ一年生のマネージャーの菊池敦子ちゃんと桃井さつきちゃんもすごく歓迎してくれた。

バスケ部のキャプテンは虹村先輩という人で見た目は結構怖いが「がんばれよ」と言ってくれた。
赤司くんは私が入部したことに少し驚いていたけど優しく笑って「ありがとう」とだけ言ってくれた。


うん、私…頑張れそう。


そして今、私は第三体育館にいて部員の前で挨拶をしている。

私はまず三軍についてマネージャー業務を覚えることになった。
だから私は今、三軍の皆さんの前にいるのだが…三軍なのに人数が多いのは気のせいだろうか…?
ざっと見ても三十人以上いると思うんだけど…


「知ってるやつもいるかもしれないが名字は転入生でマネージャー業務も初めてとのことだ。不慣れなところもあるがみんなフォローしてやってくれ。」

三軍の松岡コーチがそう言うと、部員は「はい」と大きな返事をする。

そんな中、私は列の後ろの方にいる黒子くんを見つけた。
黒子くんと目が合うと黒子くんは一瞬少しだけ驚いたような顔をしていたが口を緩め口パクで

“が ん ば っ て く だ さ い”

と言った。

私がこの言葉にありがとうの意味を込めて少し笑うと彼もほのかに笑い返してくれる。


コーチの解散の合図に部員が散りウォーミングアップを始めたところで教育係の美希ちゃんがドリンクの準備のやり方や、バスケ部の備品や収納場所を教えてくれた。
あとは洗濯機ある場所とか、仕事の段取りとか…覚えることはかなり多い。
しかもこんなのまだ序の口で、基本的な仕事が慣れてきたらシャトルランのタイムを計測したり部員のシュート成功率の計算したりするらしい…これだけの人数の計算やら計測なんかしていたら殺人的仕事量だね、そりゃマネージャーも足りないわけだ。


でも、ふと部員たちを見てみると彼らも鬼畜としか言いようのない練習メニューをこなしている。
ド素人の私から見てもあれだけの時間ダッシュで走りつづけたり、筋トレしたり、フットワークをやり続けたら死ぬ。
しかもこれが三軍の練習だっていうのだから驚きだ。
二軍や一軍の皆さんは一体どんな練習をしているんだろう。
というか死人が出てもおかしくないよね…

部員たちが鬼畜な練習メニューをこなしている一方、私は頭がパンク寸前である。
美希ちゃんは最初は私もそうだったよー焦らないでね、と言ってくるがビブスってなに?ボトルってなに?
覚える事が多すぎて許容量をとうに超え頭がオーバーヒート寸前で美希ちゃんの後ろをついて回るだけでいっぱいいっぱいになっているうちにマネージャー初日は終わってしまったのである。

松岡コーチの練習終了の合図で部員とマネージャーが集まり終わりの挨拶をすると今度はボールの数や備品の確認、明日の朝練の準備をやらなくてはならない。
全てが終わるころにはボロ雑巾のようにクタクタで美希ちゃんに心配されてしまった。
更衣室で制服に着替えてさあ帰ろう、と思ったが私はどうしても寄りたいところがあった。
自然と足は再び第四体育館へ向かう。
もう部活は終わり他の部員たちはマネージャーたちよりとっくの先に帰ってしまっているが黒子くんと青峰くんは今日もそこで居残り練習をしていたのである。

「あ、名前!」

青峰くんが私に気づきよぉ、と手を挙げた。

「お疲れ様。見てっていい?」

「いいぜ!テツもいいよな?」

「はい、大丈夫です。」


二人の了解を得た私は入り口近くに座り二人の練習を見ていた。
体は疲れているけど、どうしても見たくて…
恐らく私は二人が楽しく真剣にバスケをしている姿を見るのが好きなのだろう。
好きにも色々と種類があるが…私が彼らに抱いているものは憧れの好き、多分二人のバスケのファンというのが一番近いと思う。


二十分くらい練習を眺めていたら二人は今日はここまでにすると言って片付けと帰りの支度をやり始めたので私もボール拾いを手伝った。
今日も昨日と同じように三人で一緒に帰ることにした。
いくら冬の夜でも慣れないことをしたから体が熱く、肌を刺すような冷たさが心地いい。

「それにしても名前、本当にバスケ部入ったんだな!」

「うん、覚えることが多くて死にそうだけど頑張る。
…そういえば青峰くん部活中一回も見かけなかったけど、どこにいたの?
まさか二軍の体育館?」


私の発言にびっくりしたのか二人とも鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。
え、私なにか悪いこと言った?

私がわたわたとしていると隣にいた黒子くんがただ一言呟いた。


「…青峰くんは一軍です、そしてレギュラーです。」


え…


「青峰くんレギュラーだったの!?一年生なのに!?」


今度は私が声を荒げて驚くと青峰くんは私の勢いに圧倒されたのか少し引いて「お、おう…」と言っていた。


「あんな大所帯の中でもレギュラーとか凄いんだね…」

確かに青峰くんの動きは素人目から見てもすごくバスケが上手いなと思った。
どこがどうすごいのかは説明出来ないけど、ボールの使い方が違うのかなとは思う。


「そんなこと言ったらテツも今、赤司に言われて自分のバスケスタイル模索中だもんな。」


え…?
赤司…??

「赤司って、同じ一年のあの赤司くん?」

私は青峰くんに聞いた。


「なんだよお前、赤司知ってんのかよ。」

「だって同じクラスだし、席も隣だもん。」


「マジかよ!!」

「そう言えば名字さん一組でしたね。」


「でも…黒子くん、バスケスタイル模索中ってどういうことなの?」

黒子くんに尋ねてみればそうですね…と考えながら話し始める。


「簡単に言ってしまえば僕にしか出来ないことを見つける、ということです。
他の誰にも真似出来ない僕だけのバスケを見つけるということですかね…」

「でもそれって凄く難しいんじゃないの?」

「はい、バスケの固定概念を捨てて新しいものを見つけることは凄く難しいです。
でも…実はもう掴みかけてるんです。」

「そうなの!?」

「まだ掴みかけている、というだけで完璧に自分のものにしているわけではないんです。
完成まであと少し…というところでしょうか。」

「凄い…ねぇ、それってどんな技なの?」


「技という技ではありませんが完成したら名字さんにお披露目しますよ。口でどうこう言ってもピンとこないので見てもらった方が早いんです。」


一年生なのにレギュラーの青峰くん、自分の出来ることを一から模索して完成させようとしている黒子くん。

「二人ともすごいな…私も頑張ろ。」


二人は私の言葉を聞くと笑ってくれた。

「一緒に頑張りましょう。」

「まあ頑張ろーぜ。」


よし…


「まずはバスケの用具の名前から!ビブスとか色々覚えるぞ!!」


「そこからかよ!!」


私はまだまだ前途多難だけど、二人の頑張りを見てると頑張ろうって思える。


出来ることを一つずつ


最初の目標ができました。





.
prev/next

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -