私たちの出会い
それはある放課後の話だ。


転入して暫く経ったので先生と面談があった。
面談といっても学校生活慣れてきたかとかそんな感じの話。
クラスにもいい具合に馴染みつつあるから今のところ問題はない、と先生に伝えたら先生は安心したような顔をしてくれた。
やっぱり色々心配かけていたのだなと素直に思い、同時にここまで気にかけてくれていたことに感謝したいと思った。

しかし面談が終わったのはいいのだが、先生の都合で面談の時間がかなり遅い時間に設定されてしまったので帰る時間がとんでもなく遅くなってしまったのである。

陽はすっかり落ちて真っ暗、教室の電気は消えてるし、ほとんどの部活動も終了しているようである。

先生にも先生の事情があるのは仕方ないが、こんなに遅くなるのは初めてでいつもと違う学校の表情に少し不安を感じた。


早く帰ろう、そう思って仄暗い廊下を足早に歩いていったがどこからかトーン、トーン、トーンとリズムのよい音が聞こえた。

なんの音だろう?

音は思ったより遠くなさそうだ。
よく耳をすませてみると音のする方は第四体育館ということが分かった。
そういえばクラスの子から聞いたことがある。第四体育館に幽霊が出て夜な夜な誰もいないはずなのにボールをつく音が聞こえるとか…

もしかして私は今まさに怪異を目の当たりにしてるのではないのだろうか…?

そんな恐怖が胸の中からじわじわと滲み出てきたが悲しいことに人間という生き物は怖いものを見たいと思う好奇心というのを持ち合わせていて、現に私ももしかして本当に幽霊がいるのだろうか?という好奇心が沸き始めてしまっているのだ。


第四体育館の明かりはついている。
でもこの音は複数人いる音ではないと思う。
そうなるとやはり…?

自分の中で答えを出すのならいっそのこと、この目で確かめればいい。
よし、と意気込んだ私は行き先を第四体育館へ変え明かりの方へ足を早める。
そしていよいよ第四体育館の扉の前にきた私は思わず眉をひそめた。

扉が…開いている?

第四体育館の扉は誰が入ってもいいようにと全開だったのだ。
なるほど、だから音が響いて私がいた方(体育館から距離は少しあるが誰一人いない静かな校舎)に響いたのだろう。

顔を少し覗かせると確かにボールをつく音は聞こえる。
でも一体どこに…?


目を凝らして見てみるとガラスのように透明な存在感を持つ水色の髪の男の子と小麦肌をした青い髪の男の子がいた。
その二人がだだっ広い体育館でバスケのパスの練習やドリブルやらシュートの練習をしていたのである。

現実的に考えて幽霊なんているわけもないか。
恐怖に似たドキドキを感じていたから少しがっかりした気持ちになった私であった。


でも…あの二人、すごく楽しそうにバスケの練習をやっているな。
私は素人だからバスケのことは全然分からないけど、二人がすごく真剣に、だけど楽しそうにバスケをやっているのは分かる。

いいな…


ドアの入り口から暫く見ていたら「そろそろ時間だし終わりにするかー」と小麦肌の男の子が言って二人が片付けを始めた時だった。

二人が私の存在に気づきバッチリと目が合ってしまったのである。
なんともいえない微妙な空気が私たちの間を漂う。
はっきりいえばとても気まずい雰囲気である。

「あ、ご…ごめんなさい。練習、見ていて…」


気まずさのあまりどもってしまう。
でも小麦肌の男の子は太陽のような眩しい笑顔を私に向けてくれた。

「いや、いいって!お前もバスケやんの?」

「いや、やったことはないですけど…興味があるというかなんというか…」

あまりにも眩しい笑顔を向けるものだから戸惑ってしまう。
私の様子を察してか水色の髪の男の子がこう言った。

「青峰くん、彼女…困ってます。」



























____________






































「へぇーお前が一組の転入生だったのか。」


その後結局私は二人に途中まで送ってもらうことになった。
水色の髪の男の子に「こんな時間に女子一人で帰るのは危ないので途中まで一緒に帰りましょう」と提案され、小麦肌の男の子にも「そうだぜ〜一緒に行くぞ」と言われ断るにも断れず、その好意を無駄にしたくなかったので一緒に帰ることになったのである。

ちなみに私は二人の名前をまだ聞いていない。


「通りで同じ一年なのに顔見たことねーなって思ったわけだ。」

「微妙な時期に転入してきたから委員会も入ってないし、部活もまだ入ってないからね…」

歩道橋を登りながらそんなことを話す。
やっぱり真冬の夜ということで都会の光にも霞まず冬の星座が空を彩る。
吐く息も当然白い。
そんな時に小麦肌の男の子がそういえばさ、と私に話を切り出した。

「お前、バスケに興味があんの?」

さっきよりは落ち着いた話し方で話してくれたから私も対応に困ることなく実は、と切り出せた。

「部活に入らなきゃいけないって先生に言われて前の学校では帰宅部だったからなにをやったらいいのか分からなくて…そんな時にクラスの子にバスケ部のマネージャー誘われたんだ。
変な時期に入部することになるし、ここのバスケ部ってすごく強いから厳しいってことも聞いたけど…」


ふいに赤司くんのあの優しい笑顔を思い出した。


「バスケ部の子がバスケは楽しいって言ってて、なにかに夢中になれるのっていいなって思ったし…そんな頑張っている人たちをサポートする仕事に興味を持ったの。」


私の言葉に二人は耳を傾けてくれた。
でも小麦肌の男の子はすごくいい笑顔でこう言った。

「ならやればいいじゃん、マネージャー。」

「え?」

「難しくうだうだ考えるんなら興味もった方に突き進めばいいじゃんかよ!」

「いや、でも…」

「だー!!もう、いいか!?」

小麦肌の男の子は水色の髪の男の子と私を置いて歩道橋の階段を三段くらい登って振り向いた。
いいか?、と私の前に立つ彼は凄く堂々としていて、どうしてだろうか。夜なのに光り輝いて見えた。

「入る時期がどーしたとか、厳しいとかそんなの関係ねぇし必要ねぇよ!大切なのはここだろ?」

ここ、と彼は自分の左胸を勢いよく示した。

「お前が羨ましい、やってみたいって思えばやってみればいいんだよ。
やってみないことにはなんも分かんねーし始まらねぇだろ?
大切なのは理由じゃねぇよ、直感だ!やらないで後悔するなんて一番もったいねぇよ!!」


あまりにも潔く言ってくれたから言い返す言葉はなにも見当たらず逆に呆然としてしまった。


「青峰くん、クサいです。」

私の横にいた水色の髪の男の子がそうバッサリと切り捨てると「んな゛!?」という声がした。
でも…と水色の髪の男の子が私の方を向くと赤司くんとは違う柔らかく優しい笑顔を私に向けてくれた。

「羨ましいと思うなら、やってみたいと思うなら…僕はやってくれたら凄く嬉しいです。」


その言葉を聞いて小麦肌の男の子は歯を見せて笑い、水色の髪の男の子方を向き肩をくんだ。

「それに俺とテツはいつか一緒のコートに立つって約束したんだもんな!だからお前がもしマネージャーをやってくれるんなら、俺たち仲間だぜ?」


「なかま…?」

「バスケはなにもコート五人だけでプレーしてるんじゃねぇ。
ベンチで支えてくれる人、影でサポートしてくれる人がいて始めてチームなんだ。
だから俺とテツはお前が仲間になってくれるんなら大歓迎だ!」


この言葉は嫌みがないほど私の胸にしっくりと、そしてすとんと落ちてきた。


「私が…やりたいっていったら入れてくれるの?」


二人は笑ってくれる。

「もちろん!あ、でも…お前の名前は?」

小麦肌の男の子に聞かれ私は笑顔でこう言った。

「名字名前!あなたたちは?」


「青峰!」


「黒子です。」


今更の自己紹介に私たちは一拍間を置いてから声を出して笑った。




“やってみないことにはなにも始まらないし分からない”

“やらないで後悔するなんてもったいない”



青峰くんの言葉がすごく胸に響いた。
多分私はマネージャーになっても受け入れてもらえないのではないかと思い、臆病になっていたんだと思う。
でも青峰くんと黒子くんは仲間になってくれたら嬉しいと私に言ってくれた。
それがなによりも嬉しかったし安心した。


彼らが約束を果たし一緒のコートに立つ日、私も仲間としてそこにいたいな。




そうして私は次の日、男子バスケットボール部に入部届を出してマネージャーになるのであった。


まだまだ小さな光と影と私。


私たちはここで出会った。





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