それはきっと憧れ

「…え?部活?」

帝光中学に転入して一週間が経とうとした時、担任に呼び出された。

知らないうちに目を付けられるようなことをしてしまったかと今までの自分の行いを思い返していたのだが思い当たらず、頭の中でワタワタとしていたから思わず間抜けた声を出してしまった。

「そう、うちの学校は部活動は一応必須参加だからね…そろそろ名字も学校の雰囲気に慣れてきたみたいだから、入部する部活動を決めてもらおうと思って。」

担任から一枚のプリントを渡されると来週までに入る部活を決めておいてね、と軽く言われ用件が終われば担任は足早に教室を出て行くのであった。


改めて貰ったプリントを見れば運動系、文化系…色んな部活があるではないか。
どこの学校にもありそうなメジャーな部活からクイズ研究とか占星術とか活動内容が全く想像つかないものまで幅広くある。

うーん…前の学校では部活が必須参加ではなかったから帰宅部だったし、この機会に心機一転なにか新しいことを始めてみるのもいいかもしれない。

教卓の前でプリントと睨めっこをしていると同じクラスの女の子が話しかけてきた。

「なに見てるの?」

「あ、美希ちゃん。」


彼女は新井美希ちゃん。
この前、理科の実験で同じ班になり話しかけてくれたセミロングヘアーの女の子である。

「いや、先生にねそろそろ部活入れって言われて…なんの部活に入ろうかなって思ってたところなの。」

こんなに部活動の種類あるんだね、とプリントを見せれば美希ちゃんは苦笑いをしていた。


「大きい学校だからねー…こんだけ種類があると迷うよね。
名前ちゃんは前の学校で部活やっていたの?」

「全然、だからなにに入ればいいか迷っているんだ。」


そっかー、と呟く美希ちゃんはなにかを考えるような素振りをしている。
少しすれば考えが閃いたらしく明るい顔を見せ私にこう言うのであった。


「ならマネージャーなんてやってみない?男子バスケ部のマネージャー!」

「え?マネージャー…?」

「そう!男子バスケ部のマネージャー。
私もやっているんだけどどうかな?
三年生の先輩が引退して一気に人数減っちゃってさ…マネージャー不足なんだよ。」

それに、と彼女が付け足す。

「名前ちゃんの隣の席の赤司様、バスケ部なんだよ。
一軍でスタメンだし…しかも一年生なのに副部長もやってるの!
試合の時もカッコ良くてさあ…」

美希ちゃんの話は男子バスケ部のマネージャーに関する話題ではなく、男子バスケ部で活躍する同じ一年生のレギュラーの子の話に変わってしまった。
なんか同じ一年生がすごく活躍しているみたいで、特に赤司くんに関しては饒舌に語ってくれたが…赤司様って呼び方はどうよ。
だけど赤司様って呼び方が不思議なことにとてもしっくりくる。
様付けが似合う中一男子って…

「…だから名前ちゃんがマネージャーやってくれたらすごく嬉しいけどバスケ部は朝も放課後も毎日練習だし、お家の都合とかもあるかもしれないし…無理にとは言わないから。」

申し訳なさそうにする美希ちゃん。
なるほど、毎日練習があるから大変なのだろう。
きっとごり押ししすぎて絶対に入らなきゃいけない雰囲気を作らないようにするため彼女は気を使ってくれたのかもしれない。

「誘ってくれてありがとう、候補に入れて検討してみるよ。」

にっこり笑えば美希ちゃんも笑ってくれた。


「私もありがとう。」

授業がそろそろ始まるから私たちは別れそれぞれ自分の席についた。
次の授業の教科書を出していると席を外していた赤司くんが教室に戻ってきて自分の席について授業の準備を始めた。

「赤司くん、聞きたいことがあるんだけどいいかな。」


「なんだい?」

赤司くんは教科書やノートを机の上に置いたら私の方を向いた。

「あのね、先生に学校にも慣れてきたから部活に入るように言われたんだ。
私、前の学校では部活が必須じゃなかったから帰宅部で…なにに入ればいいか迷っていたら男子バスケ部のマネージャーに誘われたんだけど男子バスケ部ってどんな部活?」


いつも事務的な質問ばかりするから自分がいる部活のことを聞かれてビックリしたのだろう。
赤司くんが少し間抜けた顔をしている。
でもそんな顔を見せたのは本当に一瞬でそうだね…と呟いて話してくれた。

「百戦百勝、勝つことが全て…今年は中学バスケ日本一のタイトルを穫った。」

「え…」


それってめちゃくちゃ強い部活ってことじゃないですか…
あ、美希ちゃん朝も放課後も毎日練習って言っていたよね。
練習はかなり厳しそう…


「だから練習も常に全力で妥協はない。
負けることは許されない…でも。」

彼は優しく笑ってくれた。
それは今までに見たこともない本当に優しい笑顔。


「このチーム…部活の仲間たちと過ごす時間は好きだし、仲間たちと得る勝利はかけがえのないものだよ。
それに…マネージャーたち、サポートしてくれる人たちがいるから練習も試合も滞りなく出来ることに感謝してる。
…本当に周りに恵まれているよ。」

あまりにもの優しい笑顔に私はビックリした。


「赤司くんは…バスケが好き?」

「ああ、好きだよ。」

ここで授業を知らせるチャイムが鳴り先生が入ってきたので自然に会話は終了する。


バスケが好き、そう言った彼が凄く輝いて見えた。
なにかに本気で一所懸命になること。そんな体験をしたことがない私には彼が別世界の人間に見えたし、同時にとても羨ましくも思えた。


頑張っているひとたちのサポート…バスケ部のマネージャーか。


前向きに考えてみよう、私はそう思って前を向き教科書とノートを広げるのであった。







.
prev/next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -