嵐のような人

帝光中学に転入して数日が経過した。
一組のみんなとも一通り話せたし、滑り出しは順調である。
どうやら友達もできそうだ。
でもこの学校の地理を完璧に覚えるのはまだまだ程遠く、放課後はだいたい学校を探検している。

今日は音楽室や図書室、美術室がある特別棟を回ってみようと思う。
やっぱり広い学校ともなると音楽室や美術室がいくつもあったり、図書室の書庫もすごいことになっているのかなあ…

そんなことを思って吹奏楽部が奏でているであろう楽器の音を遠くに聞きながらのんびりと歩いていると、突然地響きが聞こえてきた。


「え?」

吹奏楽の音ではない異質な音に疑問を持った私が振り返ると、後ろから金髪の男の子が走ってくるではないか。

「ちょ…ちょっと匿って!!」

もの凄い形相で匿って、と迫るあまりに返事が出来ず、男の子に右手を取られるとそのまま近くにあった美術準備室に引きずり込まれてしまった。


「え…ちょ!?」

なにがなんだか分からず、なすがままに美術準備室に入ると男の子は勢いよくドアを閉めそのままもたれかかるにしゃがみ込む。

一体なんなの!?

そう声に出そうと思った時、女の子のたちが集団で「どこにいったのー?」などと声を荒げ、地響きをたてながら美術準備室を通過していく。

女の子のなにかを探し求める声と地響きが徐々に遠のいていき、しばらくして静けさが戻ってくると男の子はドアにもたれたままハア〜と深くため息をつき「なんとか撒けた」と呟いていた。

「あ、あの…」

なにがなんだかさっぱり分からん。


思わず眉をしかめてしまう。
私の存在に気づいた男の子は勢いよく立ち上がり凄く申し訳なさそうな顔をした。

「すみませんッス!なんか色々巻き込んじゃって…」

素直に謝罪を述べてくれた男の子は華やかな容姿だった。
太陽のような金髪、恐ろしく整った顔、女子より長い睫毛、そしてなにより背が高く足も長い。
…八頭身以上ありそうだ。

「あの地響きなんなんですか?結構驚いたんですけど…」


「あー…ちょっとファンの子に追われていて…」

うん、確かにイケメンだがファンの子に追いかけられるとか漫画の中でだけの話だと思っていたのに現実世界にあるんだ。
色んな意味で驚いていると金髪の男の子は私の顔をジッと見てくる。

「あ、あの…なにか?」


イケメンに見つめられるあまり居心地が悪くなってなんか用かと聞いてみるとああごめん、と軽く謝って

「いや、君…一年生っスか?」

「うん、そうだけど…」


「君のこと見たことないなーって…」

上履きの色が私と一緒だから多分彼も私と同じ一年生だろう。

「あ、私…転入してきたばっかりだから。それで見たことないんじゃないかな?」

「あー!転入生が来たって聞いたっス!もしかして一組の転入生っスか?」

「うん、そうだよ。」


クラスは違うけどよろしくっス、と眩しい笑顔を見せる彼にこちらこそ、と頭を下げると突然声を荒げた。

「やっべ、この後の予定があるのすっかり忘れていた…!転入生さん色々巻き込んでごめん!また!!」


かなりの早口で台詞を言った彼は勢いよく美術準備室から飛び出していく。

うん、まるで嵐のような人だった…

嵐が去った後、もうここにいる必要がない私も美術準備室を出たが、ここで重要なことを思い出した。


「名前…聞くの忘れちゃった。」

あの男の子も私も名前を名乗っていない。

でも同じ学年だし、あれだけ華やかな容姿だから目立つだろうし、きっとまた会う機会はあるだろう。

名前を聞くのは今度でいいや。

そう思った私は学校探検を再開させるのであった。

うん、本当に嵐のような人だったな…



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