赤髪の少年
一年一組、それが私の新しい教室だった。
担任の先生も優しそうな男の先生でやっていけそうな気がする。
そして朝のホームルームでは諸連絡の後、私の紹介があった。
時期外れの転入生に好奇の眼差しが向けられたが追々慣れていけるだろう。
なんかいい人が多そうだし。
「それで名字の席だが…廊下側の一番後ろだ。隣の奴は赤司って名前だから分かんないことは赤司に聞いてくれ。」
先生に指示された通り廊下側の一番後ろの席へ行く。
そうして隣の席の子に挨拶をしようと思ったのだが、挨拶の言葉より驚きの声が漏れてしまった。
燃え盛るような真っ赤な髪に陶器のような白い肌。
夢で出会った涙を流して助けを求めている少年と瓜二つであったからだ。
私が席について驚きのあまりに固まっていると赤い宝石のような瞳を丸く見開いて
「どうかしたのか?」
と聞かれてしまった。
それはそうだ。
初対面の人の顔を見たら驚いて固まるとか失礼極まりない。
悪い印象を与えかねない。
「あ、ごめん…知り合いに似ていてビックリしたの。」
苦し紛れの言い訳であるが、赤司くんは少し困ったように笑ってくれた。
「赤司征十郎だ、よろしく。」
「名字名前です、よろしくお願いします。」
二人で挨拶を交わし、帝光中学での学園生活が始まる。
赤司くんの顔をガン見してしまったことにより悪い印象を与えてしまったのではないか、と最初はどうなるかと思ったが、まだ教科書が届いていない私に嫌な顔ひとつもせず赤司くんは机を近づけて教科書を見せてくれたり、移動教室で理科室が分からなくて誰にも聞けないでいたら「一緒に行こうか」とスマートに話しかけてくれて一緒に行ってくれたり…赤司くんはめちゃめちゃ優しい人だということが分かった。
授業の間の休み時間には他のクラスメートが数名話しかけてきたが
「あー赤司の隣で良かったねーアイツ本当にいいヤツだから」
というのが皆の意見で、彼の人望の高さを伺わせた。
確かにあの物腰柔らかいスマートな対応といい、とても中一男子が醸し出す雰囲気でもない。
転校初日が終わる頃になれば、夢での出来事は頭の片隅に追いやられ、記憶の奥底へと沈められた。
あの涙も“助けて”という言葉も今目の前にいる少年のものだとは思えず、この時の私は“ただ夢の中の出来事”で片付けるしかなかった。
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