Ray of shine
私…このテストが終わったら好きなだけコンビニでお菓子買うんだ。
それでもう食べられない、ってなるまでお菓子食べるんだ。

そんなどぎつい死亡フラグを建設してしまうくらい今の状況は笑えない。

テストは明日からだけど、この一週間…赤点を取りそうな可能性のある青峰くんと黄瀬くんと私の三人は赤司くん、緑間くん、紫原くん、黒子くん、桃ちゃん総出で勉強を見てもらっている。
なんでも赤点を取って補講を受けることになってしまったら補講と日程が丸被りしている全中予選に出られなくなるからだということ。
多分これで補講とかになったら赤司くんがマジギレ1000%のやつだ。
本気で怒った赤司くんとか恐すぎる、冗談抜きで明日の朝日を拝めないだろう。

今日も放課後、赤司くんの教室で勉強会をしている。
でも今日は赤司くんと緑間くんが部活の用事で虹村先輩に呼ばれていないので黒子くん、桃ちゃん、紫原くんが先生役でいる。
私の不安要素は国語だけなので黒子くんが教えてくれているのだが…問題はあのバカ二人だ。
なんで「1247年に起こった鎌倉幕府の内乱を答えなさい」って問題で「○○合戦」って○のところを埋めればいいだけなのに「ゆき合戦」とか答えちゃうかな青峰くん。
一応日本史得意なんでしょ?
ってか雪くらい漢字で書けよ…そして雪合戦で一族滅ぶ三浦氏とかないわ。
あと国語のことわざで「急がば回れ」を「急がば走れ」と書いた黄瀬くん。
うん、走った方が早いだろうけどね…残念ながら回れなんだわ。
まさかここまでバカだと思わなかったとここにいる全員戦慄している。
あ、紫原くんは我関せずというような感じだ。
紫原くんだけめっちゃバリバリ菓子食ってるけどね。
だから緑間くんや赤司くんがいないとなると桃ちゃんは一人であのバカ二人を見るとか…うん、ご愁傷様すぎる。

「名字さんはやはり文章読解が苦手ですけれど、ことわざは理解していて漢字の書き取りも出来ますし、古文の文法や訳で点を取れば平均点は取れそうですよ。」

「本当?」

「はい、むしろそれ以外の教科は緑間くんや赤司くんとも張り合えるくらいですから根っから理解力が不足している…というわけではなく、僕が説明したことをきちんと理解していますので大丈夫だと思います。」

「うわー!ありがとう黒子くん!!これで私は赤点を免れるように頑張るよ…!」

「はい、頑張って下さい。」

黒子くんのノートのコピーと国語の教科書とプリント類が散らばっている机の上に伸びるように突っ伏すと隣に座っていた黒子くんは安堵したように少し笑っていた。

「名字さんは頭がいいので実はそれほど心配していないのですが問題は…」

「あ、うん。全てを察した。」

黒子くんと二人で桃ちゃんたちが机を向かい合わせ四人で勉強している(だが一名菓子食ってるだけ)方を見ると青峰くんと黄瀬くんが死んだように机に突っ伏して桃ちゃんが頭を抱えるように赤ペンを持って二人の解答用紙に丸つけをしていた。

「もう嫌っす…なにも見たくない…」

「さつきは詰め込みすぎなんだよ、分かるわけねぇだろ…」

「なに言ってるのよ!明日は初っ端英語なんだよ?とにかく点取れるところで取っとかないと赤点なんだからね?補講になったら予選に出られないんだからね!!」

すげぇ桃ちゃん…あのバカ二人に勉強させてる…!!
ってかなにをどうしたらあそこまで死んだように突っ伏すはめになるのだろうか。

「紫原くん、青峰くんと黄瀬くんどうしてあんなに死にそうな顔しているの?」

黒子くんと席を立ち、まいう棒をしゃくしゃくと音を立てて食べている紫原くんの隣に立つと間延びした返事をして教えてくれた。

「さっちんが間違えた単語を三十回書かせて、また問題集やって間違えたら単語四十回書かせてたから死んでるみたい〜」

ふぁ!?単語そんな書き取らせていたのか桃ちゃん!!

「…桃井さん、容赦ないですね。」

黒子くんは青峰くんと黄瀬くんの手元にあるノートを眺めている。
そこにはたくさんの英単語が書き込まれていて、どれだけ間違えて書いていたのか窺い知ることができた。
…あれだけ単語書いていれば手がもう痛いだろうに。


「青峰くんもきーちゃんも…このくらい単語書ければ最低ラインは取れるかな?
よし、今日はここで終わりかな。」

丸つけを終えた桃ちゃんが赤ペンを置くと二人は長いため息をつき、まるで一気に風船の空気を抜くように萎んでいった。

…もしかしたらこの中で一番強いのって桃ちゃんかもしれない。

心の中でそう思ったのは内緒である。



_________



いくら日が延びても、もう遅い時間であることに変わりはない。
勉強道具を鞄に詰め込んだ私たちは下校するために正門へと歩みを進める。

「っつーかよ、一週間もバスケ出来ねぇとかマジ退屈だな…あーバスケ、バスケ、バスケ!」

「バスケしたいんなら赤点きちんと回避してよね!…もう。」

真っ赤な夕日に照らされた私たちはとぼとぼと歩く。
縮こまった体を伸ばすように青峰くんは伸びをするけど口から出るのはバスケが出来ないことに対する不満。
それに頬を膨らませる桃ちゃん。
私は思わず苦笑いをした。

「あれ?」

ふと私が体育館の方を眺め急に足を止めると黄瀬くんがその様子に気づき

「どうしたんすか、名前っち。」

と声をかけた。

「体育館、鍵が開いてる。」

鍵がかかっているはずの体育館に扉が開いている、と指摘すると全員足を止めた。

「え?嘘。テスト期間中なのに。」

桃ちゃんがそう言うと青峰くんはよっしゃー、と両手を高々と上げて体育館に向かって走っていった。

「おい!バスケしようぜバスケ!!」

「あ、青峰くんなに言ってんの!!今はテスト前期間で放課後に体育館使っちゃダメなんだよ!」

「細けぇこと気にすんなって…な、テツと黄瀬も行くだろ?」

「はい、いいですね。」

「あー!いいっすね…体ナマってるから動かしたいっす!」

「ちょ、きーちゃん!?テツくんまで…」

桃ちゃんの制止も虚しく青峰くんは黒子くんと黄瀬くんの手を引っ張って体育館へ直行。
その素早さはまさに中学最速だ。

「もう仕方ないんだから…名前ちゃん、むっくん行こう?」

「えー俺も行くのー?」

桃ちゃんの問いかけに紫原くんは嫌そうな顔をするけど、ここまで来たら全員共犯者のような気がする。

「…むっくん、のりしおあるよ?」

「行く!」

桃ちゃんのお菓子攻撃に一瞬で心を奪われた紫原くん。
なんだかもう色々チョロすぎる。

無事に紫原くんもがっつり道連れにした私たちも後を追って体育館に行くと、青峰くんたちはすでにボールを持っていて青峰くんと黄瀬くんが1on1をしていた。
いや…1on1じゃない。

黄瀬くんのボールを青峰くんが取り、黒子くんにパスをする。そして黒子くんがボールをゴールに向かってふわりと投げると勉強で缶詰めにされていた鬱憤を晴らすように豪快なダンクシュートを決める青峰くん。

「っくー!やっぱ最高だぜ!!ナイスパス、テツ!!」

「はい、ありがとうございます。」

コツンと拳を合わせる二人。

「ちょっと!!2対1とか酷いっす!!」

黄瀬くんが半泣きで青峰くんに抗議をするけど青峰くんも黒子くんもしれっとしている。

「あ?んなこと言ってんだったら紫原誘えよ。」

耳をかきながら雑に答えると黄瀬くんは入り口に佇む私たちの方を向く。

「紫原っち!一緒にバスケやろ!!」

「ヤダ。」

「そんなー!!あ、青峰っちたちに勝ったらコンビニで好きなお菓子奢るっすよ!!」

「じゃあ、やる。」

だから紫原くんチョロすぎる。
鞄をその辺に置いた紫原くんはだるそうに黄瀬くんの隣に行く。

「紫原か…まあ、そんな感じなら楽勝だな。」

「はぁ〜?峰ちんも黒ちんも捻り潰すし〜」

「上等だっ!!」

無許可で体育館を使用をしているんだけどね、なんだか白熱した試合が始まってしまった。

「なんか始まっちゃったね。」

私が桃ちゃんにそう言うと桃ちゃんはじっと黒子くんを見ていた。

「…桃ちゃん?」

「あああ、なに!?名前ちゃん。」

微妙に声が上擦り、どこか頬も赤い。
これはもしかして…

大体は察したけど言葉にはしない。
これは女の子の問題だ。

「あーあ、これ緑間くんや赤司くんに見つかったら大目玉だよ。」

私がそう言うとああ、と少し拍子抜けしたような様子を見せたけどいつもの桃ちゃんに戻った。

「まあ仕方ない、か。」

「あ、そうだ!全中予選の対戦校のDVD見たんだけど桃ちゃん対戦選手のデータある?」

「あ、あるよ!私も名前ちゃんにそのことで聞きたいことあったんだ。」

私たちは床にすわりデータが記入してあるプリントやらファイルを取り出し皆が勝つための作戦を練る。
私はフォーメーション、桃ちゃんは選手個人のデータ。


やっぱり私たちはバスケが大好きなんだ。

日が暮れた体育館。
ボールが弾む心地よい音と笑い声。
いけないことをしているけど、それさえも楽しいと感じてしまう一時。

桃ちゃんと話しているとき、ふと体育館の入り口を見ると赤司くんと緑間くんが私たちを見ているのに気がついた。

緑間くんは頭を抱えていたが、赤司くんは私と目が合うなり柔らかく微笑んでくれていた。



でも、赤司くんにテスト期間中なのに体育館を無断使用したことに対して皆で怒られるまであと十分…




なにをやっても


ただ



楽しかった。




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