思い出の1ページ
あの二軍の練習試合を同行して以来、黄瀬くんと口喧嘩をすることもなくなり良好な友人関係を築けるようになった。
なったのだが…

「黒子っちー青峰っちー名前っちー!!お昼っすか?昼なら一緒に食べようよ!!」

食堂でお昼ご飯を青峰くんと黒子くんと食べていたらどこからともなく黄瀬くんが現れたではないか。
その現れ方といったらティーンズ雑誌引っ張りだこのイケメンモデルという風格なんてない。最早大型犬に懐かれているようにしか思えない私がいる。

「僕の隣で良ければ空いていますよ。」

「あ、黒子っちの隣イイっすか?」

「本当に変わり身早ぇよな…ついこの間までテツのこと舐めきってたり、名前と言い合いまくっていたヤツだとは思えねぇわ。」

「私も青峰くんに激しく同意。」

昨日からテスト一週間前のため部活も休みで部活をやっている時みたいにお腹は激しく空かないものの、やっぱり空くもので私はトンカツ定食ご飯大盛にコロッケパン、デザートにドデカいプリンを食べていた。

「ってか名前っち…めっちゃ食べるんすね。」

「…お腹すいてたの。」

「名前はテツより食うぞ、だからデブなんだよ。」

「デブって言わないでよ!体重はちゃんと平均だもん!」

青峰くん酷い、デブだなんて暴言だ。
食べることが大好きなんだからいいじゃないか。

「あれー?黒ちんと峰ちんと黄瀬ちんと名前ちんじゃん。やっほー」

私が青峰くんの暴言にもめげずトンカツ定食を食べようとした時、間延びした声が前方から聞こえてきた。

「紫原くん…」

今日もデカいな、そしてご飯の量が私よりも大変なことになってるな。

「峰ちん隣いい?」

「おう、いいぜ。」

青峰くんの隣の席に座るなり箸を文字通り握ってご飯を勢いよく口にかきこむではないか。
私は紫原くんのお母さんじゃないが箸は正しく持とうよ、と言いたくなる。
それでも彼はそんなことお構いなしに食事を続けていたが突然ピタリと箸を止め「あ、そうだ」と話し始めた。

「赤ちんからなんだけど、峰ちんと黄瀬ちんと名前ちんに伝言があったんだー」

「え、伝言?」

話し始めるのはいいが食べるのか喋るのかどっちかにしようよ紫原くん…

「赤司っちから…ってなんの用すか?部活も今は休みの期間なのにー」

黄瀬くんが首を傾げて聞いた。
赤司くんからの伝言?しかも私と黄瀬くんと青峰くんをピンポイントでとか私も全くもって想像がつかない。

「んー?なんか三人は赤ちんが放課後、先週やった小テストの答案用紙持って二年一組に来いってさー」

紫原くんのこの言葉にワケが分からないと言いたげな黄瀬くんとそれと対照的に顔が青ざめている青峰くん、そしてなにかを察したような顔をしている黒子くん…
赤司くん、一体なんの用なのだろうか。


そんなことがあったのがつい先程。

そして放課後、私は青峰くんと黄瀬くんと最近返された答案用紙を持って二年一組に来た。来たのだが…

「なんでみんないるの?」

自分の席についている赤司くん。その横に佇む緑間くん、黒子くん、紫原くん、桃ちゃんである。
しかも雰囲気重たい。

「青峰、黄瀬、名字…よく来たね。」

「赤司っちなんなんすか?いきなり放課後に答案用紙持って来いって…言われた通り持ってきたんすけど…」

赤司くんはため息をひとつつく。

「…俺の答えより先にまず黄瀬、お前の答案用紙を見せてくれないか?」

「え?いいっすけど…」

黄瀬くんが答案用紙五枚を赤司くんに渡し赤司くんと緑間くんがそれを見る。
だけどみるみると顔色が変わってくるではないか。

「…想像以上なのだよ。」

「…まさか黄瀬までもか。」

「え?」

黄瀬くんはきょとんとする。

「国語30点、数学25点、英語40点、理科29点、社会33点とはどういうことなのだよ!!」

「え?フツーじゃないんすか?」

「普通なわけがあるか!あとフツーと伸ばすな!!正しく発音しろ!!」

うわお、ひでぇ。理科と数学赤点じゃないか。
ってか一番高いのが英語だけど半分もいってないとか壊滅的すぎる。

「なんだよ黄瀬、お前…意外と点数高いじゃねぇか。」

え?

青峰くんの一言でその場が固まる。

「青峰くん、まさかまた0点とか…」

桃ちゃんがひきつってる。
いや、小テストだよ?
小テストで無得点だなんてあるわけ…

「あ?あるに決まってんだろ?」

あるんかい!!

青峰くんが赤司くんの机にバサッと五枚の答案用紙を置くなりその場にいる全員で覗き込むなりその場は絶対零度に凍りつく。

「数学0点、国語30点、英語5点、理科30点、社会35点…なんだこりゃ!!?」

思わず読み上げてしまった私。

「ち、ちょっと青峰くん数学0点ってなんなの!?私、ノート貸してあげたじゃん!!」

「あ?なんか眠たくなって寝てたら試験時間終わってた。」

「信じらんない!!」

いや、ってか桃ちゃんのノート借りたのにテストで寝て0点叩き出したの?

「信じられないのだよ。」

「峰ちんないわー」

「…これはないですね。」

「酷すぎっすわ。」

うん、私も激しく同意だ。

「ってか黄瀬くんも点数酷くないかな?」

黄瀬くんも青峰くんのこと笑えないんじゃないのか?
私が隣にいた黄瀬くんにボソッと言う。

「いや、青峰っちよりはマシっすよ。」

「いや、そうかもしれないけどね…赤点二つとかちょっと…」

「え?そんなこと言ったら名前っちは何点なんすか?」

「はい。」

私が黄瀬くんに答案用紙四枚を渡すと黄瀬くんは目をこれでもかというほど見開いた。

「数学100点、英語98点、理科95点、社会90点!!??」

「はあ!!??名前…めちゃくちゃ頭いいじゃねぇかよ!!」

赤点コンビ黄瀬くん、青峰くんは私の答案用紙を見るなり声を荒げた。

「いや、授業聞いていればできるっしょ。」

「いや、授業聞いていてもほとんどの教科をこのくらいの点数にするのは難しいと思います…」

黒子くんにそう突っ込まれても顔色を変えない人物が約一名いた。

「名字。」

それはつい数ヶ月前まで隣人だった赤髪の副主将、赤司くんだ。

「国語は何点だったんだい?」

その場に沈黙が訪れる。


「…はい。」


さっき出さなかった国語の答案用紙を赤司くんに差し出す。
その瞬間、先程の青峰くん以上の空気の凍てつきを感じた。

「国語…30点!!??」

黄瀬くんが声を荒げる。

「お前、なんで他はめちゃくちゃ頭いいのに国語だけアホみたいに低いんだよ!!」

「アホじゃないし!青峰くんよりは総合点数高いし!!」

「なになに…“いくら文章で美化したって不倫はないと思う”って…名前っち本文から抜き出せっていう設問の読解問題でなに自分の感想書いてるんすか!!??」

「その作者と私の考えが合わなかっただけだ!」

そう、私は…国語だけはいつも何故だか出来なくて赤点ギリギリの点数をとってしまうのである。
数学とかみたいに答えが一つしかないハッキリとした教科は好きだけど、国語みたいに答えが一つではない教科は苦手である。

「うわー名前ちんないわー」

「いや、私…青峰くんや黄瀬くんみたいにバカじゃないからね!?」

紫原くんに弁明をしていたその時だった。

「いずれにしても青峰、黄瀬、名字。お前たちは自分に一つでも赤点がありそうだというのは分かっているね?」

まさにその声は刃だった。
鋭利な刃物で空気を裂いたのだ。

「赤点になれば補講に強制参加をしなければならないから補講と日程が丸被りする全中予選には参加出来なくなるだろう。
だからお前たち、赤点をとったら分かっているね?」

ヤバい、怖い。
赤司くん笑っているけど、めちゃくちゃ怒っているやつや!

「今日から青峰、黄瀬、名字は居残りで勉強だ。
俺たちでお前たちの勉強を見る。
赤点はなにがなんでも回避してもらうからな。」


赤司くんのこの言葉は死刑宣告に聞こえた。
いや、死刑宣告だったんだろう。
とりあえず、赤点を取ったら私の命はないと察したので今日から死ぬ気で国語を勉強しようと思ったこの瞬間であった。





.
prev/next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -