点を取る主役は君
天気も良い麗しき日曜日。
今日は二軍練習試合の同行マネージャーをやるので集合場所の最寄り駅改札出口におります。
おります…が。
「………。」
「………。」
うん、こうなることは分かっていたよ。
黄瀬くんが改札から出てきて私と目が合うなり二人してゲテモノを食わされたような顔をする。
「おはよう、黄瀬くん。」
かなり引きつった笑顔で社交辞令の挨拶をすると向こうも「はよっす…」とかなり小さな声で返した。
うん、きちんと挨拶しろと言いたいけど言えばきっと「挨拶したの聞こえなかったんすか?」と返され私と黄瀬くんで試合が始まってもいないのにバトルが勃発する。
そしてまた二軍の先輩が止めるまで喧嘩するに決まっている。
争いの火種はもう撒かない、そう決めた。
大きく深呼吸して怒りを鎮めていると黒子くんが改札機を通るのを見かけた。
「おはようございます。」
「黒子くんおはよー。」
相変わらず私以外黒子くんに気づいていない、うんやっぱり影が薄いね。
「黒子くんがいる試合の同行マネージャーやるの久しぶりかも。」
「そうですね、僕も名字さんと一緒なのは久しぶりな気がします。」
「へへ、今日はよろしく!」
「はい、よろしくお願いします。」
うん、黒子くんは礼儀正しいし波長が合うから癒されるわー
どこかの金髪モデル様とは大違いだ…
二軍の監督が来るまでに私は出欠を取る。
今日は灰崎くんみたいなサボリもいない、全員出席だ。
監督が集合場所に来て挨拶をしてから全員出席の旨を伝えると練習試合をやる中学校へ徒歩で移動することになった。
黄瀬くんと黒子くんが前の方にいて私は一番後ろで歩く。
その時、黄瀬くんが黒子くんになにか話しかけている姿を見かけたけど遠くてよく聞こえなかった。
…自分より劣ると見なした人は見下す黄瀬くんのことだ。
黒子くんとどっちが多く点を穫れるか勝負しろ、とかそのくらい言いそうだ。
パス回しを生業にする黒子くんにとって点を入れることなんか関係ないのに。
じとっ、と黄瀬くんを見ていれば試合会場の中学校の体育館に到着し、ウォーミングアップを開始する。
私もドリンクを大量に作ったり、スコアシートを試合前までに記入できるところを済ませた。
相手校はとにかくガラが悪い。
ウォーミングアップ中も
「帝光でも二軍なんて大したことねぇだろ!」
「二軍にも女子マネいるとか大層なご身分で」
とか、なんとも小物臭漂うことを言っている。
部活動の練習試合なのに全くもって信じられない、はっきり言えば常識を疑う。
思わず睨みそうになってしまったが、グッと堪えるうちに試合開始時刻となった。
スタメンはまずは二軍のみ。
監督がフォーメーションの確認をして整列し試合開始のホイッスルが響く。
「…ひどい。」
思わずそう言いたくなるくらい当たりがキツく、明らかに相手のファウルなのに体が接触したらこちらのファウルとして取られてしまう。
「帝光ったって大したことねぇのかよ!」
「二軍は大したことねぇんだな!!」
そしてギャラリーのヤジもガラが悪い。
点差は十点差だけど、このままファウルを取られ続けたら負ける。
監督もそう判断したのだろう。
「黄瀬、出番だ。」
選手交代で黄瀬くんが投入されたのだ。
投入されてから最初はノーマークだったけど、黄瀬くんが抜いてシュートを入れてから二人つかれキツい当たりのマークをされている。
ってかあれだけ密着したら普通ファウル取らないの?
と思ったら黄瀬くんが無理に抜こうとして相手に接触、黄瀬くんがファウルを取られてしまった。
…これじゃあ得点源である黄瀬くんは身動きがとれない。
「…名字。」
突然監督に呼ばれた。
「はい。」
「お前はこの局面をどう見る?」
どう見ると言われてもなあ…
「…得点源である黄瀬くんはキツいマークで機能できず、他の選手も身動きが取れない。
取ろうとしてもファウルを取られてしまう。
…せめてスペースが出来れば。」
ん?スペースが出来れば…?
「…黒子くんを起用して最短ルートのパスを回して得点に繋げる。」
私がこう呟けば監督もそうだな、と頷く。
「黒子を入れる。黒子、準備はいいか?」
「はい。」
「あ、黒子くん。」
私が黒子くんを呼び止める。
「なんですか?名字さん。」
「多分、黄瀬くんにパスを回したら黄瀬くんは黒子くんの特性に気がつくと思う。
そしたら黒子くんの話なら聞いてくれると思うから黄瀬くんに伝えて欲しいの。」
耳元で私が考えたあの守りの突破口を伝えると黒子くんは目を見開いた。
「…はい、分かりました。確かに黄瀬くんに伝えておきます。
でも、自分で伝えればいいのに。」
「…私が言ったって聞いてくれないもん。すぐ言い合いになっちゃうから。」
選手交代のホイッスルが響く。
「では、行ってきます。」
「うん、行ってらっしゃい!」
黒子くん投入に相手チームはもちろん、黄瀬くんもなんで?という雰囲気を出していた。
が、黒子くんの真骨頂はパスだ。
黒子くんのマークにつく人は黒子くんを見失う。
だから最短ルートでパスを決められ得点に繋がる。
いい音がして黄瀬くんにパスが回る。
黄瀬くんも黒子くんのパスに驚いているようだ。
「シュート!」
黒子くんの言葉にハッとした黄瀬くんは言われた通りシュートを入れる。
相手チームは黒子くんがなにをしたのか分からなかった様子だ。
「ボールから目を逸らさないで下さい。
点差が点差なので本気でいきます。」
黒子くんがそう言いながら黄瀬くんに近寄る。
「それと、これは名字さんからの伝言です。」
耳元で私の伝言を伝えてくれたのだろう。
黄瀬くんは目を見開く。
「僕もこの攻め方が一番スマートだと思います。僕はパスを回します、点を取る主役は君です。」
そうして黒子くんのパスのおかげで黄瀬くんが機能したこの試合は十点差あった試合もひっくり返し、試合終了のホイッスルが響く頃にはうちの勝利で終わるのであった。
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