私と黄色
私の今の表情を言葉で表すなら物凄い剣幕、というところか。
ああそうだ、今の私は金髪頭を見ただけでリンゴを片手で握り潰せるくらいの勢いでイラついている。

昼休み、私は一人で体育館へやってきた。
ここでなら本当に一人になれる気がしたから。
教室には黄瀬くんがいるからもってのほか、学食は人がたくさんいるし、屋上はこの間カップルがいて気まずくなったのを思い出したから行くのをやめた。

そうだ、私は今一人になりたいのだ。
一人になりたかったのに…

「なんで赤司くんがいるの。」

体育館へやってきたらそこには先客がいた。

「やあ、まさか名字が来るとは予想外だったよ。」

制服のジャケットを脱ぎ袖を捲ったらスタイルでバスケットボールを持つ彼は体育館の入り口に佇んでいる私に少しだけ微笑んでくれた。
でも私は一人になりたいんだ、赤司くんと二人きりというのも心が休まらないだろうと考えた私は回れ右をして帰ろうとしたが…

「せっかくなら少し話していかないかい?」

先手を打たれてしまった私はYESかハイかしか選択肢が残されていなかったので大人しく体育館の中に入ったのである。
渋々私が体育館に入ると彼は満足したのかドリブルとシュートの練習を一人で始めたのである。

「休み時間、いつも練習しているの?」

ついこの間まで同じクラスだった彼は昼休みいつもバタバタしていてなかなか見つからない。
生徒会の仕事だったり、その当時は卒業式や三年生を送る会の話し合いだったり、部活の集まりだったりで一人でいくつもの仕事を掛け持っているのだと言いたくなるくらいの仕事をこなしていた。

「ああ、部活が終わっても副主将の仕事があるからね。…と言ってもこの時間も限られた時間ではあるけど。」

スパン、といい音を立てながらボールがネットをくぐる。

立っていることが億劫になってきた私は体育館の床に座り、そのままゴロンと横になった。

「女子がそんなところで横になるものじゃないよ。」

ドリブルをしながら私を諫めるように諭す赤司くん。

「…私は今、とてもむしゃくしゃしているの。」

突っ伏すように寝転がる私に溜め息をつく。

「名字は大人しそうに見えて意外とアグレッシヴだね。」

顔こそは見えないが穏やかに話しかけられた私はゆっくりと顔を床から赤司くんの方に向け聞き返す。

「それ、聞きたくない言葉かも。」

どこぞの金髪を思い出す。

「黄瀬とのことかい?」

「うん、一番聞きたくない名前をありがとう。」


黄瀬くんが入部した初日に派手に言い合いをしてお互いに“チェンジで”と言ったのに赤司くんはそれでも私を二軍に置き続け黄瀬くんと接触させたのである。
彼が入部して二週間くらい経ち色々割り切って二軍のマネージャーの仕事をこなしていた私だけど、昨日なんか黄瀬くんのモップかけ(だけど床は全然綺麗になっていない)があまりにも酷かったから「だからきちんとモップかけて、モップの埃を撒き散らさないで」と言ってそこからまた口論になってしまい二軍の先輩に止められるまで喧嘩をしていた。

「ってかなんで赤司くん私を二軍にやってるの?」

「何故…って、黄瀬と名字はきっと馬が合うと思うからだよ。」

「はあ!?」

思わず飛び起きた。

「いやいやいや、赤司くん知っているでしょ?私たちがなにか言う度に喧嘩してるの。」

黄瀬くんとだったら言い合いにならない分、まだ灰崎くんとの方が会話できる気がする。
あ、灰崎くんの場合は彼を部活に連れて行くことが目的だから私と一緒に虹村先輩もいるが。

「お前たちは正反対だ。黄瀬は器用な天才型、名字はコツコツと積み上げていく努力型。
だからこそぶつかり合いもあるかもしれないが、きっとそれは一過性のものだ。
ぶつかり合った分、お互いに磨かれてお前たちは上手くやれると思うよ。」

「はあ…」

「名字は記憶力と広い視野という資質は確かにあった。
周りには愚痴を零していたらしいが弱音を吐かずに俺が言ったことをコツコツとやり続け、今ではある程度のフォーメーションの対応策もすぐにコーチに進言できる程にはなっているはずだ。
お前はそんな努力型だ。」

ってか赤司くん、私がもう嫌だとか愚痴っていたこと知っていたんかい。
そんな突っ込みもあったが抑える。
目だけで彼を追うと軽いフットワーク、鮮やかな身のこなしでまたシュートを決めた。
ボールがネットから落ちると再びボールを広い、今度はスリーポイントラインまで下がる。
私は再び寝転がってスリーポイントを打つ赤司くんを眺める。
緑間くんのスリーポイントは化け物級の正確さだけど、赤司くんのスリーポイントも綺麗だな。

「…私、子どもだから赤司くんみたいに考えられない。」

「俺だって子どもさ。」

「なんか赤司くんの言葉には重みがあるもん。私なんか黄瀬くんの見下した態度を見るとカチンときてついキツく当たっちゃう。」

バスケットボールが床に弾む振動が頭に響く。
まるで心臓の鼓動みたいで何故か落ち着く。

「…黄瀬は」

赤司くんがまたスリーポイントを構える。

「黄瀬はきっと名字の力が必要になるよ。」

「そんなことないよ、黄瀬くんはなんでも出来るからすぐ一軍のスタメンになりそう。」

「まあそうだろうね、でも。」

赤司くんのスリーポイントが決まると彼はボールを拾い規則正しいドリブルをしながらまたスリーポイントラインに戻る。


「経験がない分、理論を積み上げて努力をしてきた名字の力が絶対に必要になる。
今はぶつかってばかりだけど、名字だって心底黄瀬を嫌ってはいないはずだ。」

スリーポイントのモーションに入る赤司くんを何も言わず眺める。

「明日から黄瀬は一軍に上がる。そこで黄瀬の教育係は黒子に任せようと思う。」

「え?」

赤司くんのスリーポイントがまた決まる。
でも、ボールは取りに行かず私の方に振り返る。


「黒子と黄瀬、最初は合わないだろう。
黄瀬は自分より下だと見たら君も知るような態度だ。
…でも、俺には考えがある。」

「考えって?」

「今は言えない。でも君の力も必要だからね。
また近々お願いすることがあると思う。」



赤司くんは本当に不思議な人だ。
なにもかも見えているように話すし、人に言葉をかけるのも上手くてとても同い年には見えない。


「…私、赤司くんには一生かかっても勝てないかも。」

「俺は負けたことがないからね。」

「でもいつか、めちゃくちゃ意外な人に負けたりして。」


彼がいうように今は喧嘩してばかりの私と黄瀬くんだけど、本当にいつか上手くやれるのだろうか。
でも赤司くんが言うのだから不思議と本当にそうなりそうな気がした。


そんな昼休みの一コマであった。




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