次への足音

あの初陣から暫く時が経った。
私は帝光バスケ部のマネージャーとして毎日を送っている。

赤司くんは相変わらずDVDを貸してきて作戦板を使って私に試合をトレースさせてるし、桃ちゃんも料理が酷さが直ることはなさそうだ。
この間、一年生マネージャーで部員の皆に配るためのバレンタインのチョコを作ったんだけど、いくら料理が壊滅的な桃ちゃんだってチョコレートを溶かすことくらい容易であろうと思ったのだが…チョコレートに直接熱湯を注ぎ込んだからね。
あれには同じマネージャーの美希ちゃんと敦子ちゃんも絶句をしていた。

青峰くんは相変わらずのバスケ馬鹿だし、黒子くんは練習中吐きまくってるし…

あ、でも変わったことと言えばこの間一軍の試合に同行してから一軍の人たちとも話すようになった。


「あ、灰崎くん。」

今日も部活へ行こうとしたら生徒玄関近くの階段で玄関に向かう灰崎くんに遭遇した。
初めて会った時は虹村先輩にたこ殴りにされていて顔が原型留めていなかったけど(全ては灰崎くんの自業自得)ぶっちゃけ今でもたこ殴りにされた顔の方がインパクト強いのは内緒な話だ。

「んだよ、名字…」

ゲッ、という顔をされた。

「部活だよー、行かないと虹村先輩にまたボコボコにされるよー?」

今までいた階段の踊場から下駄箱のところにいる灰崎くんのところに駆け寄ると私のことなんか完全無視して玄関にある靴を取り上履きから履き替えるではないか。

「へーへーそーですか。」

「もう、灰崎くんはサボリですって虹村先輩や赤司くんに言いつけるよ!」

「勝手にどーぞ、俺は帰るわー」

このままいけば灰崎くんは部活をサボると誰もが思うけど、実はこの灰崎くんの引き留めにはトリックがあるのだ。

「だそうでーす!虹村せんぱーい!!灰崎くん今日も部活サボるって言ってまーす!!!」

「は!?」

私の言葉に引っかかりを感じたのか灰崎くんは目を見開く。
そう、一軍の試合に同行してから視野が広いことを虹村先輩や赤司くんに買われた私は(なんでも黒子くんを見失わないから)サボリまくる灰崎くんを見つけて引き留め、虹村先輩が武力行使で灰崎くんを部活に連れて行くという任務を偶に虹村先輩から言い渡されることがある。

「よくやりましたー名字。さあて…は〜い〜ざ〜き〜」

ずっと私が見えるところに控えていた虹村先輩の顔はそれはそれは鬼の形相だった。
ちなみに今日は灰崎くんのサボリが三日目である。
そりゃ一年生が無断で三日間もサボリ続けたら虹村先輩の堪忍袋の緒もブチギレだ。

「テメェ、名字!謀ったな!!」

虹村先輩に睨まれている灰崎くんは私にそんなことを言う。

「何回も引っかかる灰崎くんが悪いんじゃない?」

ちなみに私が見つけて灰崎くんが虹村先輩によって強制連行されるのは今日で四回目である。
サボり続けて私に見つかったら虹村先輩がやってくるってなんで学習しないかなあ…
私だったら引き留め係に見つからないように逃げるぞ?


「虹村せんぱーい、私もう体育館に行っていいですか?」

「おーいいぞ。」

「では失礼します。」

虹村先輩に挨拶をして回れ右をした瞬間、灰崎くんの断末魔を聞いた気がしたが私の知ったことではない。
学習しない灰崎くんの自業自得だ。

「あれは…?」

体育館へ行こうと廊下を歩いていた時、紫頭の巨体と自分の背丈はあるクリスマスツリーを持った緑頭が前方を歩いているではないか。

「緑間くん、紫原くん。」

私が声をかければ二人とも振り向く。

「名字か。」

眼鏡をかけ直し私の名前を覚えていてくれる緑間くんと

「みどちん、この人誰〜?」

「…名字です。」

常にまいう棒をしゃくしゃくと頬張り名前すら認識してくれない紫原くんである。

「珍しいな、いつものお前はもっと早く体育館へ行くだろう。」

「あ、今日は虹村先輩からお仕事を頼まれていたの。」

「…灰崎か。」

「そうそう。」

緑間くんはおは朝占いの狂信者でもあり毎日ラッキーアイテムを持ち歩いている。
この間のかに座のラッキーアイテムがピンクのシュシュだった時か…シュシュを持っていない緑間くんに貸してくれと真顔で迫られたので1日貸したのは久しい記憶だ。
シュシュを貸してから緑間くんとは偶に話せるようにはなったが(と言っても彼はかなりの変人)紫原くんだけはどういうわけか名前すら覚えてくれない。

「もう少しで一年生も終わりだね、早かったや。」


ちょっと急ぎ足で三人揃って体育館へ向かうと緑間くんはそうだな、とため息をついた。


「一月にここへ来たんだ、お前は尚更早く感じるのだろう。」

「そうだね、あー二年生になったら赤司くんもDVD貸した後に試合をトレースさせるの止めないかな?あれ結構精神的にしんどい。」

「無理だろうな。」

「デスヨネー」


二年生か、きっともうすぐ桜が咲いてまた新たな出会いがあるかもしれない。


「二年生になっても楽しみだな。」


帝光に転入してからバスケ部のマネージャーになって忙しい毎日を過ごしているけど、私はとても充実した毎日だ。
まだまだ肌寒いけど心は自然と暖かくて、忙しすぎて疲れることもあるけどこれからなにがあるのかワクワクでいっぱいだ。


「さあて、虹村先輩は灰崎くんシメてる頃だけど赤司くんが待ってるし急ぎますか。」


私たちは体育館へ向かう足を更に早めた。


なにをやっても楽しい毎日だった。





.
prev/next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -