人は見かけによらない

「お、おい名前…大丈夫かよ?」


昼休み、私は食堂で偶然出会った青峰くんと黒子くんと三人で学食を食べている。

仲が良い友人たちと和気藹々とした雰囲気で食べている…わけではなく、ずどーんという重たい効果音が似合いそうな背景を背負った私はただ無心に紙パックに入ったジュースを啜っているのであった。

「名字さん、本当に疲れていますね。大丈夫ですか?」


青峰くんと黒子くんは箸を止めて私の顔を見ている。
黒子くんはいつもとそんなに変わらない表情だが、青峰くんに至っては「うわ、コイツまじ目が逝ってるわ」と言いた気である。

ジュースを吸い終え口を離すとこの数日の苦労を思い出したせいで長いため息をつく。
そして思わず遠い目になった。


「私…もう死ぬかもしれない、赤司くんに殺されるかもしれない…」


私がここまで疲れてる理由、それは赤司くんにある。


この間、非公式の交流戦があるからその大会書類についての仕事の説明を受けたのだが…問題はその後だ。
赤司くんから渡したいものがあるから一軍体育館に来い、と言われ一軍体育館に行った私は赤司くんからDVDを渡された。
なんのDVDかと思えばバスケの試合のDVDで明日までに見てこいと言われたのである。

なんのことだか分からないまま、部活が終わり家に帰ってからDVDを見た私は翌日、赤司くんに借りたDVDを返した。

「DVDを見たんだね。」

「うん、見たよ。」

私にそんな確認をした彼は鞄からバスケの作戦板を私の前に広げ、こう言ったのである。

「第2クオーター残り5分、赤いユニフォームのチームが3ポイントシュートを決めた時、この赤い磁石が3ポイントを打った選手だとして、他の選手がどんなパスを回して3ポイントシュートに繋がったのか再現してみて。」

赤司くんの言葉にかなり驚いたが、私はここでも言われるがまま渡された磁石を動かした。

元からパズルとかゲームとか得意だし、一度見たアニメやドラマのセリフを覚えていられる私は記憶力が良いね、と言われることも多く赤司くんに言われた場面を作戦板で再現することはそこまで難しいことではなかった。

一通り再現し終わると赤司くんはなにか考え込むような仕草を見せ、また鞄からDVDを出して今度はそれを私に渡した。

「やっぱり君はこのくらいだったら試合をトレース出来るね、次はこのDVDを明日までに見てきてくれ。」

「またDVD…?バスケの試合を見るの?」

「そうだよ、君に一番やってもらいたいことは誰よりも多くバスケの試合を見ることだ。これならルールも覚えるだろ?」


赤司くんのことだからなにか考えがあってだと思うが、次に借りたDVDは昔日本で放送されたMBAの試合でパス回しが物凄く早く、目でなかなか追えなかった。
でもまたその翌日、待っていたのは赤司くんがバスケの作戦板でこの時のディフェンス再現しろ、とか得点に繋がったパス回しを再現しろ、とか難易度が上がっている。

DVDを借りて、見て、赤司くんに言われた場面をバスケの作戦板を使って再現する。

しかも最初は一枚だったDVDは二枚に増えているし…バスケのDVDも帝光の過去の試合から他の学校の試合、パス回しがめちゃめちゃ早いプロの試合まで多様に渡る。
見るだけなら気楽に見られるのだが赤司くんが次の日作戦板を持って待っているともなれば気を抜かずに集中して見なければいけないし、DVDを見る以外にも学校の宿題とかもあるし死にそうだ。
いや、頭がオーバーヒート起こして爆発しそう、というのが正解か?


「そんなにキツいなら赤司にもう無理だ、って言えばいいじゃん。」

「青峰くん…それ赤司くんに面と向かって言える?」

「あ、無理だわ。」

「ですよね。」


転入してきたあの日、とても優しくて怖くなさそうだなと思っていた時が私にもありました。
赤司くんバスケのことになると纏うオーラがめっちゃ怖い。
作戦板の上で磁石を動かす私の手が密かに震えているのはここだけの話だ。

クラスも一緒だし席も隣の私は彼のいる空間から解放されたくて昼休みこうして学食を利用しているわけで今に至る。


「それにしても…お前本当によく食うな。」

「普通じゃない?」

青峰くんは私のトレイに乗った学食を見る。
ちなみに今日の私は唐揚げ定食ご飯大盛、焼きそばパン、春雨スープ、デザートはプリンだ。
「女ってそんな食うもんなのか?テツの倍食ってんじゃね?」

「ぶ、部活始めてお腹減ることが多くなったの!たくさん食べたっていいじゃん!」

「いや、テツと俺のが動いてるからな。
そんなに食ってんと太るぞ?」

青峰くんのデレカシーの欠片もない一言にミートボール定食を食べてる黒子くんは箸を止めた。

「青峰くん…それは女性に対して失礼です。お腹が減ったのならたくさん食べてもいいじゃないですか。」

「さすが黒子くん!青峰くんと違って紳士的!!」

「おい。」


三人でそんな話をして盛り上がっている時だった。


「名前ちゃん!」


女の子の声が私を呼んだ。
呼ばれた方に振り向くと同じ学年のマネージャーである桃井さつきちゃんが私のいるテーブルにやってきたのである。


「あ?なんだよ、さつき。」

「青峰くんに聞いてない!私が用があるのは名前ちゃんなの!」

桃井さつきちゃんこと桃ちゃん(私はそう呼んでいる)は同じ一年生なのにマネージャーの仕事も出来て可愛いし、優しいし…私から見たらパーフェクトな女の子である。
途中入部した私にも分かりやすく仕事を教えてくれるし、本当に非の打ち所もない女の子だ。
ちなみに青峰くんとは家が隣の幼なじみだという。
…青峰くん、可愛い幼なじみの女の子がいるとか世の中の男子が羨むポジションにいるなと思う。


「はいこれ、虹村先輩から。
名前ちゃん次の交流戦、同行マネージャーやるんでしょ?
日程の詳しいプリントや会場地図とかエントリーシートあるから。
当日は赤司くんも虹村先輩もいるから分からないことはなんでも聞けるから安心してね。」


はい、と綺麗にファイリングされたプリント類を桃ちゃんは私にくれた。

「桃ちゃんありがとう。」

「それにしても名前ちゃん、青峰くんと仲良かったんだね…
二人で学食食べているんだ!」

「あ?俺だけじゃねぇって。」

「はい、僕もいます。」

突然黒子くんが喋ったものだから、桃ちゃんはそれは驚いていた。

「く、黒子くんいたの!?いるならいるって言ってよ!」


「ちゃんといるって言ったのですが…驚かせてしまってすみません。」

黒子くんは存在感がとんでもなくないらしくてよく出席取るときも忘れられたり、今みたいに認識して貰えなかったりということがよくあるみたいだ。

素直に黒子くんが謝ると桃ちゃんはもう…と少し頬を膨らませている(そんな顔をしても可愛いとか可愛い人って得だ)


「交流戦、明後日だもんね…頑張ってね!
あっ、青峰くんお弁当作るから楽しみにしていてね〜」


じゃあね、と桃ちゃんは私たちに手を振り軽やかな足取りでその場を立ち去っていった。

「桃ちゃんの手作りのお弁当かあ…」

「あー…俺、午後の試合出れるかな。」

「なんで?桃ちゃん、めちゃめちゃ料理上手そうなのに。」

私が首を傾げると青峰くんはげっそりとした表情で私にこう言った。

「さつき…料理はマジひでぇんだよ…」

この時の私はきっと照れ隠しなんだろうな、と軽い気持ちでしか考えていなかったが後に彼女の料理を見て絶句するのはもう少し先の話。


交流戦まであと二日。
まだまだやることも多そうだし、頑張るとしますか。


そう思いながら皿の上の唐揚げを口に運び午後になればまた赤司くんと作戦板とDVDが私を待っているのであろうと気持ちが重くなる私であった。




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