スタート地点
ここまでの私、頑張りの成果。

「マネージャー、ビブス取ってきて。」

「はい!」

「マネージャー、ボール磨いといて。」

「はい!」

用具の名前や置いてある場所は分かるようになりました。



早起きはまだ慣れないし、仕事の段取りもまだまだ効率がよくないけど少しずつ余裕も出てきた。
それにしても…

「今日、なんか部員多いね。」

私が倉庫からスコアボードを運びながらボール籠を運んでる美希ちゃんに話しかけると、ああそれはねと話してくれた。


「今日は二軍と三軍は合同練習なんだよ、これから試合形式の練習もやるんだ。」


「そうなんだ…」


ふと体育館の入り口を見てみると黒子くんが誰かと話しをしている姿を見かけた。
誰と話しているのだろう…?
スコアボードを所定の位置に置いて、もう一度そちらの方を見てみると黒子くんと話しをしていたのはなんと赤司くんだった。

赤司くん?なんで赤司くんがここにいるの?
彼は一軍だ、一軍の彼がなにか用でもあるのだろうか。

「お、おい一軍のコーチと主将が来てるぞ。」

「おいマジかよ、なんでここにいるんだ?」

部員の会話が耳に入る。
確かにギャラリーにいるのは入部初日に挨拶した主将がいる。
ということは隣にいるスーツを着た人が一軍のコーチかな。

私はなにも聞いていないがなにかあるのだろうか?
いや、でもなにかあると聞いているのなら部員たちもここまでざわつかないだろう。

「これから二軍と三軍で練習試合を開始する。」

コーチの一言で二軍と三軍より五人ずつ部員がコートに出てきて整列をする。
その中に黒子くんも三軍チームにいるではないか。
ちなみにこの練習試合でのマネージャーの仕事についてはスコアの書き方を習ってないから記録係が美希ちゃん、私はスコアボードを捲ったりインターバルにモップをかける仕事をすることになった。


黒子くん…頑張れ!


心の中でエールを送ると試合開始のホイッスルが響く。

順当に考えれば全体的能力からして二軍の方が優っており、三軍が勝てるはずもない。
誰もがそう思っていた。

彼の動きを見るまでは。


「!?」


黒子くんがパスの中継役になってボールがゴールを決める最短ルートを行っている気がする。
だから黒子くんは直接点を入れたりしない。
入れるのは他の選手だ。
だけど黒子くんのアシストで確実に点は入っている。
しかもどういうわけか…黒子くんをマークする二軍の選手は黒子くんを見失っている様子。
だから事実上、黒子くんはフリーだ。


最初は二軍が押していたが、黒子くんのパス回しが機能したら試合終了後には三軍が二軍を追い越し…三軍が勝利した。


「すごい…」

思わず言葉が漏れた。
これはこの試合を見ている者、全てがそう思っただろうし二軍に至っては信じられないという顔をしている。

試合が終わる頃には赤司くんや虹村先輩、コーチたちは体育館から姿を消していた。



「お疲れ様。」


私が黒子くんに話しかけることが出来たのは帰りの支度が終わりお互いが制服姿になってからであった。


「名字さん…お疲れ様です。」

今日はさすがに居残り練習をやらないみたいで私たちは一緒に下校する。


「黒子くん…凄かったね。」


いつもは青峰くんという盛り上げ役がいるからか二人での帰り道というのはどういうわけか静かだ。
私が今日の試合を見て思ったままの感想を言うと黒子くんは少し間を置いて真剣な顔になった。

「…以前、僕が赤司くんに固定概念を捨てた自分のバスケスタイルを確立するように言われたのをお話したこと覚えていますか?」


「え?」


「今日、試合で見せた僕のプレー。それが僕のバスケです。」

僕のバスケ、そう言い切った彼はとても凛々しく誇らしげだった。
だから私は凄く笑顔になれたの。


「黒子くん…おめでとう。」


とっさに出てきた一言がおめでとう、だった。
でもきっと彼にしたらまだまだスタート地点に立ったばかり。
だけど黒子くんは私の言葉を聞いてその意を汲んでくれたのか、彼も少し笑ってくれた。

「やっとスタート地点です。」

「まだまだ上を目指して頑張らないとね!」


「はい。」


自分のバスケスタイルを確立しスタート地点に立った黒子くん。
そして彼の試合での活躍により翌日より黒子くんの一軍昇格が言い渡された。
これは異例中の異例であるから驚きやどよめきが三軍にあったのは仕方のないことだと思う。


彼はスタート地点に立った。


でも私は…私はみんなのためになにができるんだろう。
そんな思いが心の奥底で横切っていったのであった。





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