答えられない質問


食堂でいつも通りパニールさんのお手伝いをしていて、ふと気になったことがあった。
わたしはこれから、どうなるんだろう。
気が付けば背負った二つ名。
わたしはただ、普通の受験生だったのに。
ガイさんに話をして、少しは吹っ切れたと思ったんだけどなぁ。
はぁ、と深いため息を吐くと、パニールさんに大丈夫かしら、と声を掛けられた。
大丈夫、なつもりなんだけれども、外から───他人から見たらわたしは大丈夫なんだろうか。
どうしよう、少し不安になってきた。

「ああ、良かった。依都に聞きたいことがあったんだ」
「カトレットさん?」
「あんた、クラトスとはどういう関係なの?」

?!

「あ、それ、わたしも聞きたい!」
「え、え、あの、」
「はっきり言うと、どうなの」

どうなのもなにも!
カトレットさんとナトウィックさんにじりじりと寄られ、物凄く困る。
だって、だって、だって!
わたしとクラトスさんは何かあるわけじゃないし、そもそもあれはディーヴァくんの呼称に問題があるわけで、わたしたちの関係なんて関係無いのだ。
そう、関係無い、はず。
それなのに、どうしてだろう。
口にするのが、すごく憚れる。

「依都?」
「わ、わたしとクラトスさんは、その、ディーヴァくんを中心にした、アニーミさんの言った『偽親子』ですよ」
「………そう、」

そう、そうなのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
考えてから、ぐるぐると思考が回る。
なんでだろう。
なんでわたし、こんなに悩んでんでるんだろう。
それが顔に出てるのか、カトレットさんがすごく不安そうな顔でわたしを見てきた。
大丈夫です、なんでもないです。
そう告げたいのに、なんだろう、口が開かない。

「アンタ、もしかして」
「………………?」
「クラトスのこと、好きなんじゃないの?」

はい?!
カトレットさんの発言に、わたしは目を白黒させて固まった。




   □■□




『クラトスのこと、好きなんじゃないの?』

ぐるぐるとカトレットさんの台詞が頭の中を駆け巡る。
好き、好き。
わたしが、誰を? ───クラトスさんを?
いや、そりゃあ、ディーヴァくんの件とか、『グル』の件とか、あれこれ色々聞いたし頼りにしていたし、それに、確かに人としては好きだけれども!
だって、え、え?

「依都? 大丈夫?」
「あ、こりゃダメね、飛んでるわ」
「もぉ、ルーティ、なんであんなこと」
「もしかして、って思ったのよ。でもまさか、こんなに悩むなんて」
「って、言うか、」
「なによ」
「あれだけクラトスだけを頼りにしてて、好きじゃなかった場合がなんだかなぁって感じよね」
「確かに」

なんて言う二人の会話もあまり耳に入らなくって、わたしはただ自分の思考の渦に嵌まっていた。
ええと、いや、だって、クラトスさんのことは確かに、確かに好きだけれども、でもそれは、それはだって…………えええ?!
ぼっ、っと頬から何まで真っ赤に染まる。
すると、パニールさんはあらあらあら、と笑いながらわたしに冷水を差し出してきた。
それを頂いて、ぐいっとイッキ飲みをする。
それからため息を吐いて、吐いて吐いて吐いて、吐ききってから吸った。

「あ、戻ってきた?」
「はわっ!」
「あれ、まだだった?」
「と、とにかくですね、カトレットさん。わたしは別に、その、クラトスさんのことは、」

まごもごとしていると、カトレットさんが優しくわたしの頭を撫でた。
その温もりを甘受しつつ、わたしはまた熱くなる頬と身体をどう冷やすべきかと考えを巡らせていた。
違う、そう、たぶん。違うのだけれど、でも、でも。
………本当に違うのかな。
そう思う自分がいるのも、確かだった。



- 60 -

[] |main| [×]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -