泣かないで



「弧月閃」
「連牙弾!」
「イラプション!」
「ファイヤーボール」
「虎牙破斬ッ」

上から金髪さん、ディーヴァくん、ナトウィックさん、ミルダさん、ハーシェルさん。
ううーん、早くてついていけない。
杖を掴んだまま立ち尽くしていると、赤髪の美丈夫がこっちを睨んできた。
ひぃっ!

「あ、あのっ、だ、大丈夫ですか?! あ、あや、怪しい者じゃないんです、危害は加えません!」
「信用しろってか?」
「ししし、して頂かないとわたし達の立場がないというか、」

大佐さんに失礼だと言うか、とは言えずに口の中でまごまごする。
な、なんて言ったらいいの、なんて言ったら信用してもらえるの。
わからない、わからない。
きゅっときつくきつく杖の柄を握り締めれば、目の端に動く丸い物体。
───あ、
あああああ、オタオタ?!
いや、なにバトルしてる傍で自由気ままにぴょんこしてんの、オタオタっ!
空気読めぇえ!
ぴょんこぴょんことしたオタオタは、その視線を赤髪の美丈夫に向けた。

「───危ないっ!」
「え?」
「ルーク!!」

赤髪の美丈夫を庇うように前に出る。それと銀色の閃光が起きたのは一緒だった。
かっと身体が熱くなる。
ぽた、と落ちたのは真っ赤な液体で、それを認識してから鋭い痛みが身体中を走る。

「っ───!!」

斬られたのだ。
赤髪の美丈夫を襲おうとしたオタオタを斬ろうとした金髪さんの剣が、赤髪さんを庇おうとした彼の計算から外れた動きをしたイレギュラー───わたしに当たったのだ。

「依都!」
「依都、大丈夫か?!」

ナトウィックさんとハーシェルさんが傍に寄ってくる。
ぱっくりと斬れた左の肩口から肘までのそれにナトウィックさんが手を添えて、ふわりとマナを集めた。

「───あ、」
「お母さん!」
「『お母さん』?!」

何か言葉を漏らした金髪さんの身体を弾いて、ディーヴァくんが傍に寄ってきた。
お母さん、お母さん、と幾度かわたしのことを呼ぶ彼は、真っ青な顔をして、そして目に大粒の涙を浮かべいる。

「お母さ、」
「だ、大丈夫ですよ。ナトウィックさんの回復術は絶対ですから。ね?」

とてつもなく痛いけどねっ!
死んじゃうかと思ったけどね!
ぱた、と血が滴る剣を掴んだままの美丈夫をひょいと見上げると、彼もまた顔色が悪かった。
背後にいる赤髪の美丈夫が金髪さんの名だろうそれを口にして、金髪さんはようやく自我を取り戻す。

「依都、上着脱げる? ちょっと傷が深いから、包帯巻こう?」
「ミルダさ、」
「僕、その、医者志望だから、任せて」

わたしの視界から金髪さんを外そうと、ミルダさんが包帯などを片手に傍に寄ってきた。
大丈夫ですよ、とは口に出来なくなってきた。
頭が痛い。ふらふらする。
あぁ、貧血かなぁ、と思いつつ、ナトウィックさんが回復術を唱えている中、ミルダさんが応急手当てをしていく。

「お母さん、」
「ん………?」
「痛い、痛いよ、お母さ………!!」
「大丈夫、大丈夫ですよ」

へたり込んでびーびー泣くディーヴァくんの頭を撫でれば、こつん、と地を蹴る靴の音が響いた。

「おや。この惨劇はなんなんでしょうねぇ」
「旦那、」
「我々を保護するギルドの方々に失礼なこと………してしまったようですねぇ」
「え………?」

かつかつと大佐さんが傍に来た。
そうして、ミルダさんがきれいに巻いてくれた包帯をじっと見つめる。

「さて、何があったか説明してもらいましょうか。───ティア、貴方も彼女に回復術を」
「はい」

大佐さんの後ろに居たスタイルが良い悶絶級の美少女がわたしの傍に寄ってこようとしたら、泣きながらディーヴァくんが立ち上がった。

「お母さんに近付かないで!」
「え………?」
「あー、ディーヴァくん、ちょっと」

よいしょ、と体勢を立て直してぺちぺちと地面を叩く。
ディーヴァくんは視線をおろおろとさ迷わせてから、ちょん、と座った。
説明しようとして口を開きかけたら、わたしより先に金髪さんが口を開く。

「俺が斬った」
「ほう、」
「ルークを庇おうとしてくれた彼女を、誤って斬ってしまったんだ」
「恩を仇で返しましたか」
「………すまない。本当に、すまなかった」

血の付いた剣をしまうことなく謝ってきた金髪さんに、ぼんやりと視線を送る。
なんだか焦点が合わない。
ちゃんと金髪さんが見えない。
………頭、いたい。

「依都………?」

ハーシェルさんの声が響く。
今更ながらじくじくと傷が痛み出して、ゆるりと目を閉じた。

「───お母さん!!」

ディーヴァくんの声を聞いて、わたしは意識をぺいっと手放した。




- 7 -

[] |main| []
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -