見えちゃったもの


「『我はニアタ・モナド。ディセンダーの玉座なり』」

一人の男の人が視える。
ピンク色の髪の少女に一つ微笑んで、それからゆっくりと目を閉じた。
突然現れた、可愛い可愛い少女。
男の人にとって、何よりも可愛くて、大切で、それこそ、命に変えても良いぐらい、大切で、愛しかった。
だから、そうだから、あの人は───。

「『パスカのディセンダーと、共に』」

『人』としての命を亡くしてでも、とにかく何よりも大切なその存在のために在り続けたい。
可愛い娘(こ)が寂しさに泣いてしまわないように。絶望に囚われてしまわないように。
傍に、傍に。
その魂が姿を変えて、世界を駆けていくのであれば、それに着いていこうと。
どこまでも、どこまでも深い無償の、愛。

「『世界樹に寄り添うディセンダーのための、存在へと』」

例え、何千何万と月と日が入れ替わろうとも。
例え、その世界でその魂に出会えなくとも。
いつか必ず、再び相見える日を信じて。
そのための孤独など、苦ではない。苦ではない───。

「………依都?」
「あ、れ………? うんと、えぇと、」

鉱石なんだかよくわからないものを見ていたら、口が勝手に動いて、その情景が頭の中に浮かんできた。
それがなんだかわからない。そもそも、パスカってなんぞや。
ふるふると頭を振って思考を切り替える。
気になるけれど、それよりも。
じぃ、とわたしを見詰めるリフィル先生や大佐さんの目が怖い。
え、えぇと、うう、困ったなぁ。

「先生、ごめんなさい。説明できません」

口をついて出た言葉の数々。
わたしがなんでそんなことを口走ったのか説明できない以上、どうして良いのかわからない。
って言うか、

(逃げたい………!)

出来ることなら、この部屋から逃げしまいたい。
おおお、おかしいよ、なんで今の視れたんだろう。今まで、そんなのなかったのに。
………いや、なんか夢みたいのは見ていたけれど、それとはやっぱり毛色が違うわけで。
だって、だって───。

「カノンノと同じことを言うのね」
「え?」
「貴方、この文字に見覚えがあって?」
「あ、いえ、ないです。なんか、頭の中にぽやっと浮かんで………」
「これもグルだから、でしょうか?」

なんてあれやこれや考え出したリフィル先生達からゆっくりと、そろそろと身体を離していく。
いや、ええと。

(逃げるが勝ちっ)

えいっと、勢いを持って科学室から逃げ出した。




   □■□




「依都?」


何をしてるんだい? と、話しかけてきたのはガイさんだった。
展望室の隅っこで膝を抱えて座っているわたしを不審に思ったみたい。うん、思われるかも………。
最近、自分がよくわからない。
自分が、と言うより、『グル』と言われた自分がよくわからない。

「どうしたんだ、本当に」
「…………わたし、自分がよくわからないんです」
「ん?」
「なんか、わたしがわたしじゃないみたいだし、元々わたしはこの世界の人間じゃないし、」
「うん」
「こんな不思議な能力(ちから)、わたしは持ってなかったのに、」
「………のに?」

今はまるで当たり前のように使えるこの能力が、少しだけこわい。
さっきみたいに、よくわからないものがわかるのが、こわい。
わたし、どうしちゃったんだろう。

「何も、変わってないよ」
「でも、」
「君は君のままだ。優しい、君のまま」
「ガイさん」
「心配しなくって良いさ。それでもまだ不安なら、俺のところへおいで」

俺がその不安、なくしてあげる。
女性恐怖症のガイさんが、身体が触れるか触れないかの近くに座って、わたしを安心させるために、優しい笑顔と言葉をくれた。
そのお陰か、わたしはようやく身体から力を抜区事ができた。
クラトスさんにも相談したけど、やっぱり他の人に話を聞いてもらう必要があったのかもしれない。
ガイさん、優しいなぁ。

「ありがとうございます、ガイさん」
「これぐらい、お安い御用さ」
「わたし、もう少し頑張ってみます」
「うん」

そう決意した瞬間、船が大きく揺れた。
ひ、とひきつった声を上げる前に身体が床に叩き付けられ、顔の横に大きな手が落ちてきた。
───ガイさんの手だ。
痛みに呻きながらそう思っていると、ガイさん以外の声が聞こえてきた。
え、と、あれ………?
傍に居るのはガイさんだけなのに、誰の声だろう。
未だ揺れる船の中、わたしはゆっくりと意識を手放した。




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