伝う温もりと安らぎを


ふわふわとした心地のまま、隣にいるクラトスさんをちらりと見る。
わたしの場合、両手で持たなきゃいけないぐらいの大きさの本を、クラトスさんはあっさりと片手で持って、中身を黙って読んでいた。
今日は、ディーヴァくんが他の人とクエストに行ってしまって、わたしは手持ち無沙汰。
だからクラトスさんを捜して、勝手に隣に座ったのだけれど、ううーん、わたし、なんでクラトスさんを捜したのかな。
結局手持ち無沙汰のまま、わたしは黙ってクラトスさんを見続ける。
でもそれも不躾なので、さっと視線を外して膝を抱えた。
ぽかぽかの陽気の中、クラトスさんは読書を続け、わたしは日光浴。
こんなにのんびりしてて良いのかな、と思いつつ、今日ぐらいのんびりしたいなぁ、と言う気持ちもある。
春の陽気の様な中、少しだけうとうとと船をこぎ出した頃、クラトスさんの片手がするりと伸びてきた。
頭を抱えるようにして引っ張り、それからクラトスさんの肩に頭が乗せられる。
どうしたんだろ、とクラトスさんを見上げると、ぽんぽん、と背を叩かれた。
ある一定のリズムを刻む叩き方に誘われて、わたしはゆっくり目を閉じた。




   □■□




依都、と名を呼ばれて意識を夢から掬い上げると、ふ、と静かに笑ったクラトスさんが見えた。
うう、なんで笑ってるの………?
ぱちぱち、と目を瞬かせてから、改めてクラトスさんを見詰めると、クラトスさんの手が伸びてきた。
一度頭を撫でて、起きたか、と声が掛かった。
こくん、と頷き返してから、思わずクラトスさんの手を取った。
今一度名前を呼ばれて、クラトスさん、と呼び掛けてから、クラトスさんの手を両手で握りしめた。

「クラトスさんの手、大きい」
「普通ではないか?」
「そんなことないです」
「依都に比べれば、だろう?」
「ん、でも、ディーヴァくんよりも、大きいです」
「そうか」

両手で握っても余るクラトスさんの手。
失礼承知でむにむにと弄れば、その掌に肉刺を見付けた。
剣の柄を掴むから、どうしても出来てしまうんだよね。ディーヴァくんの手にもあった。
杖を持ってもわたしには出来ない。ふにゃふにゃの頼りない手のまま。
そうか、この手に、わたしは、ディーヴァくんは護られていたんだ。助けられてきたんだ。
大切な、大事な手。

「依都」
「え、あっ、ごめんなさい!!」

クラトスさんの手を離そうとすると、逆にクラトスさんに片手を取られ、両手で握り締められた。
わたしの手を包むクラトスさんの両手は、指先辺りが有り余ってる。
本当に、わたしの手は小さいし、頼りない。

「小さいな」
「はい」
「それでも、ディーヴァに安らぎを与える手なのだな」
「…………っ」

クラトスさんに穏やかに告げられ、身体がかっと熱くなった。

「風が出てきた。中に戻るぞ」
「わっ、」

顔を真っ赤にしたまま、恥ずかしさに身を縮ませようとしていると、繋いだ手をそのまま引かれて立たされた。
背を向けて歩き出したクラトスさんに引かれて歩き出して、繋いでいない自分の手を見る。
わたしのこんな頼りない手でも、誰かに何かを伝えられるなら、それは幸せなこと。

「どうした」
「なんでもないです、クラトスさん。強いて言うなら、その、」
「ん?」
「暖かいなぁ、って」
「………そうだな」

肯定してくれたクラトスさんの背中に一つ笑って、それから隣に並ぶように足を早めた。
今日も明日もずっと、温もりを分け合えますように。











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二人っきりのほの甘。
男の人と女の子だと手の大きさが違うよね、と言う話。体格差好きーな管理人でした。
ネタ提供ありがとうございました!



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