やっぱり聞こう


正直に言います。
『グル』やら『ディセンダー』やら言われたって、わけがわからないっ!
ちらっとディーヴァくんを見直してもけろっとした顔をしているし、ヴェイグさん見ても、これといった反応はしてない。
え、あれ、わたしがおかしいのかな?
いや、でも………、ねぇ?

「グル?」
「うぇえ。なんですか、セルシウスさん」
「大丈夫か?」
「え、あ、はい」

たぶん、と小さく呟き掛けて口を閉じた。
もう駄目だ。頭痛い。
クラトスさんかリフィル先生に聞くか、もしくはディセンダーの本を借りよう………まだ字の勉強中だけど。
ファンタジーの世界って、重い。

「吹雪いてきそうだよ。船に戻ろう」
「ルカくん」
「詳しい話は後でも、ね?」

なんて聞いてきたルカくんに頷き返すと、ディーヴァくんの手が伸びてきた。
んん?

「お母さん、行こう。お父さんが待ってる」
「え? あ、はい。帰りましょうね、ディーヴァくん」

いつもはぐらかし気味だったけれど、『今』なら、クラトスさんに聞けば詳しい事がわかるかもしれない。
うん、そうだ。クラトスさんに聞こう。
ぎゅ、と握り拳を作ると、ディーヴァくんに繋いだ手を引っ張られ、わたしは足を動かした。




   □■□




バンエルティア号に帰ってきたわたしは、チャット船長に報告する組と離れ、クラトスさんを捜していた。
あれぇ、どこにもいない? いつも立ってる場所にもいないし………どこにいるのかな。

「依都? 何してるんだ?」
「クラトスさんを捜してるんです。知りませんか?」
「クラトス? クラトスならたぶん、食堂だぜ」
「ありがとうございます、ハーシェルさん」
「待て待て、俺も行く」

隣をついて歩いてきたハーシェルさんと並んで食堂に入ると、パニールさんと一緒にクラトスさんが居た。
ほっとため息を一つ、それから、クラトスさん、と呼び掛けて一歩踏み出した。

「あ、」
「依都?!」

雪が残ったらしい靴底が食堂の床と相性が悪かったらしく、すてん、と転がった。
隣に居たハーシェルさんも、座っていたクラトスさんも反応出来ずに転がったわたしをじぃ、とまじまじと見ている。
は、恥ずかしい………!
って言うか、このタイミングで転けるわたしってなんなの! 穴があったら入って埋まりたいぃいぃぃ!

「依都」
「………………はあい」

名を呼ばれて、顔を上げれば、ハーシェルさんが手を差し出していた。
手に手を重ねて立ち上がると、パタパタと羽をはためかせてパニールさんが傍に寄ってくる。

「依都さん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です、パニールさん」

あまり掘り返さないで、穴に埋まりたくなります。
なんて言えないので苦笑いで返して、それからハーシェルさんへのお礼を口にする。
気持ちを切り変えるためにため息を一つ吐いて、それからクラトスさんを見た。
どうした、と口にせずに目で訴えてくるので、わたしも意を決して口を開く。

「クラトスさんは『グル』を知ってますか?」

最早確信に満ちた声になっていた。
ぎゅ、と口を閉じてから、改めてクラトスさんを見る。
クラトスさんはわたしを見上げてから、椅子から立ち上がった。

「依都、まだ体力は大丈夫か?」
「え、あ、はい」

クラトスさんに促されて、食堂から出る。
その際ちゃんとハーシェルさん達に頭を下げるのも忘れずに。
ハーシェルさんはパニールさんから何やら夕飯のおかずをつまみ食いさせてもらってるみたいで、口をもぐもぐさせながらわたしに片手を振った。
無言のままに歩いていくクラトスさんの背を追っていく。
着いたのは、甲板だった。
ぴゅう、と冷たい風が頬を撫でる。
風の中にはまだ雪も混じっていて、さむい、と口にしそうになって、慌てて閉じた。
そうして、くすぶっていた疑問を、思い切ってクラトスさんにぶつけてみる。

「クラトスさんは、わたしがディーヴァくんの『グル』だ、って知っていたんですか?」

答えが欲しい。応えて欲しい。
そんな願いを込めてクラトスさんを見ると、クラトスさんは黙ったまま、首を縦に動かした。



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