聞いてないっ



一回目はアニーミさんに、二回目はナトウィックさんに、ととりあえず手を引かれてやってきた場所、アメールの洞窟。
ぴょんこぴょんこと跳ねるオタオタを見つつ、先頭をディーヴァくんが頼れる足取りで歩いていく。
そんな中、ぴたっと足を止めたディーヴァくんはくるりと振り返るとわたしに黒い物体を差し出してきた。

「え、なんですか」
「防具。コットンハットだよ」
「はぁ、」
「危ないから着けよ」

そう言って、帽子を頭に乗せてきたディーヴァくんは、帽子から伸びたリボンを首でキュッとリボン結びにした。

「これで大丈夫、お母さん」
「あ、はい」

ありがとうございます、とお礼を口にすれば、ディーヴァくんは目をとろけさせて微笑んだ。




   □■□




「おや、追っ手…ですか。まったく、仕事熱心で結構な事ですね」

金髪赤目に青い服という美丈夫の発言に、わたしはぱちりと目を瞬く。
え、『追っ手』………?
なんの話、一体。

「さてと、では私も仕事をしますか。…命の保証はしませんよ?」
「え、」
「俺達、助けに来たんです!」

声を上げたのはディーヴァくんで、すかさずわたしの前に立った。
それから、ディーヴァくんが自分たちがギルドの有志で、救助にやって来たことを説明する。
美丈夫の赤い目が、ついと細められた。

「私はジェイド・カーティス。グランマニエ皇国軍大佐を務めております。と、まぁ、見ての通り困った状態でして、どうか、仲間の捜索をお願い出来ませんか?」
「はい!」
「では、仲間の風貌をお伝えしておきましょう。赤い髪に白い上着の青年。───いわゆる『やんごとなき』身分のお方ですから、無礼のないようにお願いしますよ」

やんごとなき身分。………お偉いさんか、えぇと、ファンタジーの世界だから、お貴族様かな?
なんて悩んでいると、カーティスさんは外を探すみたいで、わたし達は洞窟内を捜索することになった。

「それでは、捜索をお願いします」
「あ、あの、カーティスさ───大佐さん」
「ファーストネームでどうぞ」
「はぁ。あの、捜すのは1人で良いんですか?」
「確かに。小舟にはもう少し人が乗ってたはずだろ?」

わたしの質問を続けたのはハーシェルさんだった。
大佐さんはふむ、と顎に手を添え、

「えぇ、1人で構いません」
「………………、」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、何も」
「じゃあ、頼みましたよ」

頼まれました、と元気良く返したのはいつも通りディーヴァくんで、ディーヴァくんはにこにこと笑ってわたしの手を掴んだ。

「行こ」
「うん」

ディーヴァくんに手を引かれてアメールの洞窟の奥へ向かう。
モンスターの数が増えていて、前衛のディーヴァくんとハーシェルさんは少し疲れていた。
アニーミさんが「レベルが低い」と言っていたけれど、数が多ければ疲れるものだ。
もきゅもきゅとナトウィックさんがオレンジグミを食べながら、回復術を掛けていく。
ナトウィックさん1人の負担にならないよう、わたしも急いで杖を構えた。

「ファーストエイド」
「ありがとう、お母さん」

へにゃ、と笑うディーヴァくんの頭を背伸びして撫でて、更に奥まで足を進める。
そこには、大佐さんが言っていた赤髪で白い上着の青年が倒れていた。
その隣には、金髪青目のこれまた美丈夫。
え、なにこの格好良い揃いは。
ごきゅ、と息を飲んだわたしの目に映ったのは、白い上着の青年が右肩を抑えているところだった。
ぱたたっとディーヴァくんが傍に寄ると、金髪の美丈夫が剣の柄に手を掛ける。

「あなた達を探していた」

とディーヴァくんが冷静に呟けば、金髪の美丈夫の視線がキツクなる。

「で、このまま俺達を捕まえる気か? やってみるのはいいが、こっちもそれなりの対応はするぜ」

ぴりっと何かが肌を刺す。
恐怖に彩られた感情を面に出すまいと、急いで杖の柄を握り締めた。
た、対人なんて聞いてないよ!!
同じ金髪なのに大佐さんと違って話をまったく聞いてくれない美丈夫は、そのまま切っ先をわたし達に向けてきて、バトルは始まったのだった。



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