精霊どっかーん


精霊に会う前に出会ったマオくんとガジュマという種族であるユージーン・ガラルドさんの発言をまとめると、

「精霊暴走カチカチどーん、みたいな?」

まさしくディーヴァくんが言った通りだと思う。
変なまとめ方だけど、精霊の存在にぴんとこないわたしやディーヴァくんからすると、そうとしか言い表せない。

「ディーヴァ、それはちょっと」
「そぉ? お母さんならわかってくれるよね?」
「はい、わかります!」
「ほらぁ!」
「でも納得いかないルカくんの気持ちもなんとなくわかります」
「えっ」

驚いてむすくれたディーヴァくんには申し訳ないけど、ルカくんの気持ちがわからないわけじゃない。
だって、精霊が身近に存在していたバースさんにとっては、そんな変な表現、納得出来ないものだろうから。
ルカくんが気にしてるのは、そこなんだろう。

「………急ぎましょう」

固い声を出したバースさんに、わたしもディーヴァくんもルカくんもこくん、と頷いた。




   □■□




『氷の滝』にまでやってくると、長い髪を三つ編みに束ねた人が女の人と戦っていた。
その向こうには、氷付けにされた女の子が一人。
えぇと、あの人が、クレアさん?
マオくん達の言葉を思い出しながら、きゅ、とディーヴァくんから渡されたメイスの柄を握りしめた。

「セルシウス、クレアを元に戻してくれ。俺は………、お前とは戦いたくない」

真摯な気持ちを乗せた声が響く。
だけどそれは女の人───セルシウスさんには届かない。
セルシウスさんが放った氷柱を大剣で叩き落としたその人は、そのまま剣の切っ先を彼女に向ける。
───いけない!
漠然と、そう思った。

「ヴェイグさん!」

バースさんが彼の名を呼んだ瞬間に一歩踏み出して、男の人の背に飛びつく。
足を止めたその人はそのままわたしを振り返る。

「だめっ。精霊を傷付けちゃだめ!」
「っ!」

セルシウスさんの氷柱は降り止まない。
頬に掠めた鋭い氷柱はそのまま雪の中に落ちて、思わず息を飲んだ。

「傷付けちゃいけないって………でも暴走してるんだよ?! 依都、どうするの?」
「───大丈夫」

氷柱を剣ではたき落としながら、ルカくんの問いに返したのはディーヴァくんだった。
その瞳に、焦りは全くない。

「ねぇ、ヴェイグ? お母さんのこと、宜しく」
「は………?」
「ディーヴァくん………?」
「ルカ、アニー、やろう。セルシウスを戻してあげよう?」

セルシウスさんの暴走の中、ディーヴァくんは何事もないかのように穏やかに笑っている。

「そんなこと、出来るのか………?」
「うん。………俺なら出来る。そんな気がするから」

男の人………ヴェイグさんにも笑みを返したディーヴァくんは、腰から剣を抜いてセルシウスさんに向き合った。

「セルシウス。俺が助けてあげるからね」

ディーヴァくんの優しい声が響く。
そんなディーヴァくんの背に、戸惑いながらルカくんが続いた。

「こういう無茶は、イリアだけで十分なのに………」

ご、ごめん、ルカくん。
ディーヴァくんに付き合ってあげてー!

「お母さん、ヴェイグのちりょーしてあげてね!」
「はいっ」

傷をこさえたヴェイグさんを引き摺ってセルシウスさん達から離し、マナを手の内に集めた。
ヒール、と呟けば、ヴェイグさんの傷が治っていく。
わふー、相変わらずこれすごぉい。

「すまない。………その、何から何まで」
「いいえ。元々わたし達はセルシウスさんに会いに来たんです。だから、セルシウスさんと会話が出来るようにするのも、わたし達の目的達成のためですから」

ちょっとイヤな言い方だけど、こう言った方が気にならないだろう。
………そういう風に受け取ってもらわないと、ちょっと困る。

「………そうか、」

ありがとう、と消え入る小さな声でそう言われ、少しだけ安堵した。



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