もこもこで行こう


雪がちらちらと舞い散る中、わたしは先生から渡されたもっこもこのファーが付いたコートを着て突っ立ってる。
足の具合を考えると雪の中を歩くのはちょっとどうなの、と思ったけれど、ディーヴァくんがどうしても、と言うことでわたしも着いていくことになった。
ここは、ガレット村。
わたし達はギルドにやって来たバースさんの依頼で、ディセンダーなるものを捜しに来たのだ。
………ディーヴァくんがディーヴァくんじゃなくなった時に聞いた単語。
あんまりいい予感はしなくって、すごく不安だ。
バンエルティア号から降りる時、思わずクラトスさんを振り返った。
今回のクエストには、クラトスさんは同行しない。それがさらに、不安を駆り立てる。
同行者であるルカくんが頼りないとか、そういうわけではないのだけれど、なんでだろう、すごく不安。

「お母さん、大丈夫?」
「………大丈夫。大丈夫ですよ、ディーヴァくん」

雪に足を取られないよう気を付けて歩きながら、ディーヴァくんに差し出された手に手を重ねる。
これから、精霊に会いに行く。
あぁ、なんてファンタジーなの、と懐かしい文言を心の中で呟いて、わたしは前を見据えた。




   □■□




………それにしても。
背中丸出しで良く寒くないよね、バースさん。
わたしなんか着込んでもっこもこなのに。
きゅう、とディーヴァくんがわたしの手を握ってくれるから、右手はとても暖かい。

「お母さん、もう一回聞くけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
「………その、出発前のお父さんとリフィルからの説教のことだよ?」
「………………だ、大丈夫、ですよ」

自己判断の一件で、先生達にこってり絞られたのは言うまでもない。
た、確かに勝手な判断をしたのはわたしだけど、あんなに、あんなに力一杯怒らなくっても………。

「あっ、俺はお母さんの味方でいてあげるからね!」
「ありがとう、ディーヴァくん」
「俺がお母さんの味方なら、百人力でしょ!」
「はい」
「俺だって、頼もしいんだから」

えへん、と胸を張るディーヴァくんに、思わず笑ってしまった。

「もう、笑い事じゃないの、お母さん!」

ぺちぺちと叩いてくるディーヴァくんの肩にそっと触れる。
するとルカくんと一緒に前を歩いていたバースさんがこちらを振り返った。

「お二人は本当に仲が良いんですね」
「うん!」

ぴとっと引っ付いてはバースさんににこりと笑うディーヴァくん。
仲良しなのは確かなので、ディーヴァくんに倣ってこくりと頷いた。

「二人とも、話してても良いから、ちゃんと戦ってね?」
「もちろんだよ、ルカ! ルカもアニーもお母さんも、ちゃんと俺が護るんだからっ」

心配しないの、と口にするディーヴァくんに、ルカくんはちょっと困ったように眉を寄せていた。
う、ちょっとお話し過ぎてたかな?

「すみません、話し込んでしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。では、ガレット村についてお話しますね」
「はい」

さく、と雪を踏みながら歩いていくバースさんに続いていく。
きょろきょろとディーヴァくんが辺りを見渡しているのはもうご愛嬌だ。

「人々から生まれる『負の想念』を、精霊の力を借りて世界樹へ送り込む『穢れ流し』という儀式があるんです」

ふむふむ。

「でも、最近は『負の想念』が増して、うまく世界樹へ送り込むことができなくなってきていて………」

ほうほう。

「ガレットに住まう精霊セルシウスは、世界樹に異変が起きていると言いました。そしてそれを解決するためにやがてディセンダーが現れるだろう、と」
「それでディセンダーを探しに?」

聞いたのはルカくんだ。
『ディセンダー』………馴染みがあるようでない、その単語。
思わずきゅ、とディーヴァくんの背を掴む。
するとディーヴァくんがこっちを向いてきこ、と笑った。

「『負』の存在を認知して、しかもそれを処理するという慣習があるなんて意外だね」
「ガレット村自体よそと交流が少ないですし、一般に知られていないのでしょうね」

黙って笑ったままわたしの手を繋いで歩くディーヴァくんに連れられ、ルカくん達の話を耳に入れた。
『負』、かぁ………。

「………あ!」

少しだけ声を上げたバースさんに目を丸くすると、バースさんの視線の先には二人の人………人?
思わず足を止めると、ディーヴァくんもきょとん、と目を丸くしたまま立ち尽くした。

「マオ、ユージーン!」
「アニー! 大変なことになってきちゃった!」

どうしよう、と赤い髪の子が言った瞬間、今までとは違った冷気が身体を撫でていった。



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