自己判断はやめましょう


ベッドに腰掛けて、くるくる、と足首を回す。
あ、もう大丈夫だ。
なんて勝手に判断して、ベッドからぴょこんと跳ねて降りた。
たん、と、両足が床についても、痛みは響いてこない。
───うん、ほら、大丈夫!
勝手な自己判断だけど、大丈夫。………うん、大丈夫だってば。
心の中で誰かに言い聞かせるように呟いて、部屋を出た。
ディーヴァくんはクエスト。クラトスさんもそれについてるから心配なし。
………さて、と。

「おサボりしてたパニールさんの手伝い、再開しなきゃ」

体調不良とか、色々あって出来なかったけど、もう大丈夫だよね。
ぴょこぴょこと跳ねて、最終確認をしてから部屋を出た。
今日から(自己判断だけど)完全復活です!




   □■□




パニールさんから渡された買い物メモを片手に街を出歩いて、バンエルティア号に帰ってきたら、甲板に居たウッドロウさんがわたしを見つけてわたしの手から重たい荷物を持ってくれた。
優しいなぁ、紳士だなぁ、と感じながら、軽くなった残りの荷物を持ち直し、ありがとうございます、とお礼を口にする。
ディーヴァくんが憧れるのも仕方ないと思う。
本当に素敵な紳士様だもん。
思わずウッドロウさんを見つめてニコニコ笑っていると、ウッドロウさんは首を傾げながらも淡い微笑みを私に返してくれた。
わぁ、なんて卒がない。
なんだか恥ずかしくなってきて、思わず頬を赤くした。

「依都君? どうかしたのかい?」
「あ、いえ、何でもないですっ」

赤くなった頬を隠すように荷物を顔の前に掲げて、それからゆっくりと深呼吸をした。
顔に集まった熱を散らしてから、荷物を下げ、食堂を目指す。
………うふふ。足が動くって幸せだなぁ。
にまにま笑ってしまい、また顔を隠そうかと思ったけれど、二回も三回もやることじゃないので止めた。

「………………ウッドロウさんって、本当に紳士ですよねぇ」
「そうかい? 私はあまり気にしていないのだけれど」
「そういう気持ちで振る舞えるから、『紳士』なんですよ、ウッドロウさん」
「なるほど」

それは確かに、と笑うウッドロウさんを見て、荷物を落とさないよう気を付けながら足を動かす。
あぁ、もう、なんで口にしちゃったのかなぁ。
食堂を戸を開けて待ってくれているウッドロウさんに笑みを返してから一歩踏み出した。
………床に着いた右足が忘れた痛みをわざわざ思い出してくれるては思わず、顔を歪めて悲鳴を口にする。
傾げた身体と手から離れた荷物。それらを助けたのは後ろから伸びてきた手だった。

「何やってんだ、お前」
「おや、ユーリ君」
「あわわ、ユーリさん、ありがとうございます」

首根っこを掴まえてわたしを支えてくれたユーリさんに苦笑いをしながらお礼を言うと、ユーリさんはくつりと笑ってからわたしの首根っこから手を離した。
けふっと変な息の吐き方をすれば、ぼすぼすとユーリさんが頭を叩いてくる。
わぁあ、いたい、いたい。

「で」
「はあい?」
「とりあえず支えるか?」
「お、お願いします」

後ろからユーリさんが背を支え、前からウッドロウさんがわたしに手を伸ばしてわたしの手を握り締めてきた、
ふぇ、うぇえ!
前後に人を従えた感じ(実際には従えてはないからね!)に食堂に入れば、パニールさんの悲鳴に似た声が響いた瞬間に、やってしまった、と青ざめたのは言うまでもない。

「大丈夫だと思ったのに………!」
「自己診断か、それ」
「う、」
「とりあえずリフィルとクラトスからの説教は覚悟しとけよ、依都」
「うぇえっ」
「うーん、自己判断は少し危ないようだ。きちんと診てもらった方が良い」
「………はい」

椅子に座らせられながら、ウッドロウさんにまで諭されたので素直に頷いた。
あぁ、やっぱり自己判断は良くなかったかな。
またリフィル先生達に迷惑掛けちゃうのかな。
あぁでも、今も立派に迷惑掛けちゃったしなぁ………。

「ごめんなさい」
「次を気を付ければ良いさ」
「はい、ウッドロウさん」

ふわ、と朝露を宿した葉のような爽やかさを混ぜた笑みを見せたウッドロウさんに素直に反省の言葉を口にする。
するとパニールさんが温かいココアを出してくれた。

「ありがとうございます、パニールさん」
「いえいえ」
「わたし、駄目ですねぇ。もっとしっかりしないと」
「依都さん………」

しょんぼりした刹那、食堂の扉がしゃっと開いた。

「お母さん!」
「ディーヴァくん………?」
「ディセンダー探して雪山ゴーゴーの精霊ばぁんっだって!」

全く要領を得ないのですが。
そうは言えずに曖昧に笑って返すのだった。



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