片割れと君


暖かな日差しを受ける甲板は、元々バンエルティア号の入り口とあって屯する人間は少ない。
その日差しを浴びて座り込んで寄り添って話をする者が2人。
1人は真っ赤な長い髪を背に垂らしていて、もう1人は黒い髪を緩く結い、それを肩口から胸元へと垂らしている。
───アッシュと依都だ。
思わずギリ、と歯軋りする。
ズルい、ズルいズルい。

「ルーク、何してるんだ?」
「ガイっ。あれ、見てくれよ、ガイ!!」

ひょこりと顔を出して声を掛けてきたガイに振り返る。
そうして仲良く寄り添う2人をびしりと指差した。
するとガイはくるりと目を丸くしてから苦笑を零す。
ガ、ガイ………!!

「笑い事じゃないんだよ、ガイ!」
「で? どう思うんだ?」
「ズルい、羨ましい、俺も混ぜて」
「───どちらがズルくてどちらが羨ましいんです、ルーク?」

真後ろから急に声を掛けられビクッと肩を揺らす。
振り返れば、いたのはジェイドで、にこやかに笑っていた。

「見て下さい、ルーク。凄いですよ?」
「え?」

ジェイドに指さされてまたアッシュ達を見る。
まるで内緒話をするかのようにアッシュの耳元に口を寄せて何かを囁く依都と、それをほんの少し、あわーく笑んで依都の話を聞くアッシュ。
うぐぐぐぐっ!

「珍しいね、アッシュがあんなに安らいだ表情(かお)をするなんて」
「ふふ、依都もなんだか楽しそう」
「アニス、ティア!」
「ルーク相手じゃあ、アッシュは絶対あんな表情しないよね」
「そうね、ルーク相手じゃあ無理ね」
「だってアッシュ、ルークのこと嫌ってるもんねぇ」
「だってルークったら、依都の前だとはしゃいじゃうもの」
「………ん?」
「………あら?」

噛み合ってないような会話が終わった。
………うん、噛み合ってなくても俺は傷つくぞ、アニス、ティア。
アニスはアッシュについて話をするし、ティアは依都について言うし。でもそれが間違いじゃないから本当に泣けてくる。
アッシュとも依都とも仲良くしたいのに!!

「ま、依都ってば、まぁわりと社交的なルークよりアッシュを選んじゃうあたり、懐が広いというか」
「別に選んだわけではないと思うのだけれど………。まぁ、ルークよりアッシュと仲が良いのは確かよね」
「ルークのほうが先に会ったのにねぇ」
「そうね、そこは謎よね」
「………もう止めろ、2人とも。ルークが泣くぞ」

もう半分泣いてるんだよ、こっちは。
ガイ、止めるの遅いぞ!

「───あ、」
「ガイ?」

ガイが小さく声を漏らした。
つられてガイの視線を辿ると、アッシュの顔が依都の後頭部で見えないようになっている。
───え?
まるで、あれは………───。

「だっ、だだだ、駄目、駄目っ!」
「………? ルーク?」
「なんだ、五月蠅いぞ」
「………へ?」

まるでキスでもしてるんじゃないかと思って2人の傍へ寄れば、2人はきょとん、と目を丸くして俺を見上げてきた。
強いて言うなら、依都の手がアッシュの頬に触れているだけ。
………あれぇ?

「本当にどうしたの、ルーク。どっか、具合でも悪いの?」

白くしなやかな手が俺に伸びる。
アッシュに触れていたようにそっと頬に触れ、依都が伺うようにこちらを見上げてきた。
こてん、と傾げられた首の上に座る顔。
そこにあるのは不安と心配の表情だけ。

「っ───………!!」

かっと頬に熱が溜まる。
つまり俺の勘違い。
そしてたぶんガイも勘違い。
あああああああっ!

「ルーク?」
「っ、ごめんっ、依都っ。依都、ごめんーーーっ!!」
「え、えぇ? どうしちゃったの、ルーク?」
「───依都、放っておけ」

なんとなぁく察してくれちゃったりしたアッシュが依都の肩をそっと叩いた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、依都は俺とアッシュの間に視線を泳がせる。
するとアッシュはふ、と静かに笑ってから依都の肩をぐっと抱き寄せた。
───!!

「あああ、アッシューーー!!」
「アッシュ君? どうしました?」
「何でもねぇ」
「何でもなくねぇぇえ!」
「あー、アッシュずるーい。アニスちゃんも!」
「わぁっ!」
「………じゃあ、わたしも」
「ティアまで!」

その悲鳴は俺の口からだったか、依都の口からだったか。
後ろからアッシュ、前左からアニス、前右からティアに抱きつかれた依都はぽわっと頬を赤く綺麗に染めて、それから恥ずかしそうに俯いた。
ああああああ、混ざりたい!

「ルーク」
「なんだよ、ジェイド」
「諦めも肝心ですよ」

冷静なジェイドの台詞に肩を落としたのは言うまでもない。











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受難ルーク編でした。
ネタ提供ありがとうございます!



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